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【日常診療ケーススタディ】本命?対抗?大穴?危険な○○見逃し回避術(最終回)【プライマリケア・マスターコース】
排尿困難・失禁

No.4685 (2014年02月08日発行) P.51

砂田拓郎 (天理よろづ相談所病院泌尿器科)

八田和大 (天理よろづ相談所病院総合内科部長)

登録日: 2014-02-08

最終更新日: 2017-09-21

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■ケース

78歳,痩せ型の女性。むくみ,食欲低下を主訴に来院。
長年,2型糖尿病にてインスリン注射を行っていた。最近,排尿回数が増え,体動時に尿失禁を認めるようになり,特にくしゃみをした際に尿が漏れるようになった。受診3カ月前より下肢の浮腫が出現。徐々に増悪し,受診2カ月前より下腹部の膨隆が出現した。最近は食欲低下もあり,自分で腫瘤が触れるとのことから悪性腫瘍を心配し,内科外来を受診した。
既往歴:2型糖尿病,アルツハイマー型認知症,下肢静脈瘤。
投薬歴:インスリン(ランタス1回/日,眠前),アムロジピン,グリクラジド。
アレルギー:なし。
嗜好:喫煙なし,飲酒なし。

このケースのキーワード:浮腫 食欲低下 尿失禁 糖尿病

本命:悪性腫瘍
体重減少や食欲低下が主訴に含まれる場合,必ず悪性腫瘍を念頭に置く。腫瘤が触れるなどの自覚症状があれば,可能性は高い。

対抗:慢性心不全
下肢浮腫に加え,糖尿病がある場合は心不全の可能性も考える。呼吸状態も確認しておく。

大穴:???
大穴疾患の1つとして,膀胱など排尿に関わる臓器の異常も外せない。糖尿病に伴う合併症の程度も聴取する必要がある。

初診時診断

病歴で診断

・ 下肢の浮腫に加え,下腹部の膨隆が見られ,悪性腫瘍による静脈系のうっ滞やリンパ浮腫などを考える。本ケースは痩せ型の女性であり,腫瘤が触れるのも自然であろう。加えて,糖尿病患者は悪性腫瘍の合併率が若干高く,この患者は普段から健診を受けるタイプではなかった。
 心不全でも下肢浮腫は見られるが,下腹部の膨隆はあまり見られない症状である。
 頻尿を認めており,過活動膀胱の可能性が考えられるが,下腹部の膨隆は関連があるのかはっきりしない。

身体診察で診断

腹部の触診で下腹部に膨隆を認め,やや硬めであり,患者本人が心配したように悪性腫瘍を考えさせた。
胸部の聴診では,呼吸音は清であり,心雑音は認めなかった。また,明らかな腹水は認めず,下肢にはslow pitting edemaを認めた。

ここまでの診断→悪性腫瘍(婦人科関連? 消化管由来?)

その後の診断

検査結果で診断

 腹部超音波検査を施行したところ,腹部腫瘤に一致して著明に拡張した膀胱を認めた。両側水腎症を認めており,尿閉に伴ったものと考えられた。
 また,血液検査の結果,Crが0.9から5.6mg/dLまで上昇し,腎後性腎不全を合併していた。
 泌尿器科にコンサルトし,速やかなバルーンカテーテル留置と補液が必要と考えられた。
 バルーン留置をしたところ,2300mLと多量の排尿を認め,尿量は一晩で7000mLに及んだ。水腎症は解除されたが,しばらく尿量の多い状態が続き,適宜補液を行いながら経過観察した。入院第7病日にはバルーンを抜去できたが膀胱の過進展に伴う排尿筋力の低下を認め,バルーン抜去後も自尿を認めなかった。残尿500mLを超える状態が続き,バルーン留置にて退院,定期交換とした。
 本ケースの尿閉は糖尿病を背景とした神経因性膀胱が原因であった。時間をかけて徐々に残尿が増加し下腹部の膨隆を来し,最終的に腎後性腎不全を発症してしまった。
 本ケースの尿失禁は溢流性尿失禁をうかがわせるエピソードであった。糖尿病の病歴が問診だけでは十分得られない場合もあり,このような尿閉の症状が初発症状でありうるので要注意である。

尿閉・尿失禁とは?

尿 閉
・‌膀胱に尿が多量にたまっていても排泄できない状態。急性の尿閉では尿をまったく排出できず,膀胱の痛みが強い。一方,慢性の尿閉では痛みがはっきりしないため分かりにくい。触診や打診で膀胱の緊満が分かり,尿失禁が見られることもある。

尿失禁
・‌「自分の意思と関係なく不随意に尿が漏れる」状態であり(国際禁制学会より),以下の4タイプに分類できる。日常診療で多く出合うのは①,②である。
 ①腹圧性尿失禁:‌咳やくしゃみなど,腹圧がかかる際に起こる。そのリスクは肥満女性で30%増加すると言われている。
 ②切迫性尿失禁:‌突然の尿意をこらえきれず,トイレに間に合わない。尿意切迫感が背景にあることが多く,「水の音を聞いて」「水が流れるのを見て」トイレに行きたくなるかどうかは,切迫感の有無を聞き出す問診として有用である。
 ③混合性尿失禁:①,②を併せ持つ状態。
 ④持続性尿失禁:常に尿失禁状態が続く。危険な尿閉はこの中に含まれている。

教 訓

糖尿病を合併している場合は主訴だけに頼らず全身の診察を!
 腫瘍の場合もあるので,侵襲が少ない超音波検査を活用すべき!
 尿失禁や頻尿がある場合は尿閉の除外を!
 認知症患者の「尿はよく出ている」は信用してはいけない!
 意図しない尿漏れは溢流性尿失禁を考えよう!

診断→大穴:糖尿病による神経因性膀胱

参考文献

▶日本排尿機能学会:男性下部尿路症状診療ガイドライン. ブラックウェルパブリッシング, 2008.

▶日本排尿機能学会:女性下部尿路症状診療ガイドライン. リッチヒルメディカル, 2013.

▶吉田 修, 監:ベッドサイド泌尿器科学. 第4版. 南江堂, 2013.


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