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パーキンソン病における脳深部刺激療法後の薬物療法

No.4690 (2014年03月15日発行) P.65

梅村 淳 (順天堂大学運動障害疾患病態研究・治療講座/脳神経外科先任准教授)

服部信孝 (順天堂大学脳神経内科教授)

登録日: 2014-03-15

最終更新日: 2017-08-08

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【Q】

パーキンソン病(Parkinson’s disease;PD)で脳深部刺激療法(deep brain stim­ulation;DBS)を施行したが,その後も薬物療法を必要とする場合の注意点について。(大阪府 S)

【A】

パーキンソン病の薬物療法による運動合併症に対して脳深部刺激療法が行われる。特に視床下核刺激では術後に薬剤投与量を減量できるが,減量にあたっては精神症状の変化などを観察しながら慎重に行う必要がある

パーキンソン病に対する脳深部刺激療法

パーキンソン病(PD)に対するDBSは,主にドパミン作動性薬剤による運動合併症(ウェアリングオフ,ジスキネジア)のため日常生活動作(activities of daily living;ADL)が障害された患者に導入される。PDでのDBSの刺激ターゲットは,視床下核(subthalamic nucleus;STN)または淡蒼球内節(globus pallidus internus;GPi)である。初期の比較研究によれば1),STN–DBS,GPi–DBSとも振戦,固縮,寡動など特に薬剤オフ時の運動症状を改善し,ジスキネジアを軽減する。STN–DBSでは術後ドパミン作動性薬剤の服用量を大幅に減量できるが,GPi–DBSでは薬剤は減量できない。したがってDBSによるジスキネジアの改善は,STN–DBSでは主に薬剤の減量による間接的な効果で,GPi–DBSでは刺激による直接的な効果であると考えられている。

運動症状の改善効果がより高い点や薬剤減量が可能な点から,これまでSTN–DBSが一般に広く行われてきた。しかし,STN刺激では認知機能に対する影響(特に前頭葉機能)や気分変化などの精神的合併症が問題となることも徐々に明らかにされ2),患者の精神状態や認知機能,薬物療法上の問題点などを考慮し,症例に応じてターゲットが選択される。

脳深部刺激療法後の薬物療法

DBS後の薬物療法について,GPi–DBSでは通常,術後も薬剤は減量できないので,術前と同様の薬物投与を行いながら最大限の刺激効果が得られるように刺激を調整する。

一方,STN–DBSにおいてはドパミン作動性薬剤の減量が可能であり,刺激効果とのバランスを見ながら慎重に薬剤減量を行う必要がある。したがって術後の刺激と薬剤の調整は,同一医師またはチームによりなされることが望ましい。STN–DBSの早期手術成績についてのメタ分析によれば,術後抗PD薬はL–ドパ換算で平均55.9%減量できるとされる3)。しかしDBSは薬物療法に取って代わる治療法でなく,よほど早期に導入した場合でない限り,DBS導入後もある程度の薬物療法は必要である。

STN–DBS後の薬剤調整法については明確な指針がない。通常は術後ドパミン作動性薬剤を術前の50%程度に減量し,症状を見ながら少しずつ刺激を増強する。まず最大の刺激効果かつ最小の副作用となる刺激条件を決定し,それに合わせてさらに薬剤を増減する。PDの初期治療の用量を目安として,L–ドパ製剤1日量150〜300mg+ドパミンアゴニスト1剤程度を目標に減量できれば,将来の病気の進行に対して十分な薬物療法の余力を残すことができる。しかし,決して無理な薬剤減量を行うべきではない。最終的に刺激と薬剤をうまく組み合わせて最大の治療効果が得られるように調整する。

術後薬剤調整の留意点

術後薬剤調整を行うにあたっての留意点として,術後早期は刺激を行わず電極を留置しただけでもmicrolesioning effectにより症状が改善することが挙げられる。しかし,この効果は数週〜3カ月程度で徐々に低下し,術後早期の効果が薄らいでくる。したがって,術後3カ月程度までは多少症状の変動がみられるので細かな刺激・薬剤調整が必要となる。症状が安定した後はそれほど細かな調整は必要としない。

STN–DBSにおいて,刺激誘発性ジスキネジアは刺激調整中にしばしばみられる合併症であり,電極が正しい位置に留置されていることを示す所見でもある。ジスキネジアのコントロールが難しい場合には,細かな刺激強度の調整と思いきったL–ドパの減量およびドパミンアゴニストを主体にした薬剤調整を行う。

また,STN–DBS術後早期にはしばしば軽躁状態やうつ状態といった気分変化を認める。これはSTNの辺縁系領域に刺激が波及することが原因であると思われ,多くの場合は一過性で大きな問題になることは少ない。一方,術後慢性期のうつ症状やアパシーにはドパミン作動性薬剤の過度な減量が関与していることがある4)。術後運動症状は改善したものの,重症のうつ状態から自殺にまで至った例の報告もあり,患者の情緒変化には特に注意を払う必要がある。特に術前に高用量のドパミン作動性薬剤を服用していた患者には注意が必要であり,術後は急激な薬剤減量は行わず刺激に対する反応を見ながら,ゆっくりと時間をかけて減量する。

また,STN–DBSにより一時的に衝動性が亢進することがあり5),術後に性欲亢進などの衝動制御障害が悪化することがある。この場合にはドパミンアゴニストの早急な減量を要するが,一方でドパミンアゴニストの過度の減量が不安,パニック発作などの離脱症候群を呈することもあり注意が必要である6)

このように薬剤投与量を減量できることはSTN–DBSの最大の利点の1つではあるが,減量にあたっては患者の状態を十分に観察しながら慎重に行う必要がある。


【文 献】

1) Deep–Brain Stimulation for Parkinson’s Disease Study Group:N Engl J Med.2001;345(13): 956-63.
2) Temel Y, et al:Parkinsonism Relat Disord. 2006;12(5):265-72.
3) Kleiner-Fisman G, et al:Mov Disord. 2006; 21(Suppl 14):S290-304.
4) Voon V, et al:Mov Disord. 2006;21(Suppl 14): S305-27.
5) Frank MJ, et al:Science. 2007;318(5854): 1309-12.
6) Rabinak CA, et al:Arch Neurol. 2010;67 (1):58-63.

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