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【他科への手紙】精神科→内科一般・救急科

No.4867 (2017年08月05日発行) P.59

長 徹二 (三重県立こころの医療センター診療部次長)

登録日: 2017-08-04

最終更新日: 2017-08-01

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  • アルコール・薬物問題を抱えている人の診療に携わっていると、「自分の健康を自ら害している者をなぜ助けるのか」というご意見を頂戴します。私も医師になりたての頃は、そのように思っていました。しかし、そう考えていた頃の臨床は散々なものでした。当時は「治療をするにはアルコールも薬物も断つしかない」と正論を振りかざして、その“正しい”治療に合意しなかった患者は病院を去っていきました。断酒・断薬治療に合意していた患者も、その多くが「本当はこっそり飲んで(使って)います」と口にするようになり、「やめれば体は楽になったけど、心はちっとも楽になっていません。むしろ、苦しくなりました」と言う始末でした。今思えば当たり前のことですが、ずっと使用してきたものをいきなり断つという治療方針を受け入れられるのであれば、誰も苦労はしないのです。皆様も今日から、自分の好きなものをひとつ、完全に断つことができるでしょうか。

    同じ領域で診療するたくさんの仲間に出会い、お互いの体験を語り合ううちに、多くの患者が“正しい”方法ではなかったにせよ、“自己治療的な対処”として物質の習慣使用に至ることがわかってきました。そして、飲む・飲まない(使う・使わない)という2分法にとらわれることなく、「患者が生活の中で困っていることを理解して関わっていく」という臨床習慣が身につきました。その結果、アルコール・薬物問題を抱える人が根底に抱えている“生きづらさ”(数々の逆境体験や思っていることが話せない、他人が信用できないといった悩みなど)について語ってもらえることが増えました。この実情は、全国の仲間たちと多施設研究で確認するに至っています。

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