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政府の7対1病床大幅削減方針は成功するか? [深層を読む・真相を解く(31)]

No.4692 (2014年03月29日発行) P.141

二木 立 (日本福祉大学学長)

登録日: 2014-03-29

最終更新日: 2017-07-27

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2014年度診療報酬改定の最大の眼目の1つは、7対1入院基本料(以下、7対1病床)の算定要件の厳格化です。具体的な改定内容は①従来の「看護必要度」に代わる「医療・看護必要度」の導入、②平均在院日数の計算方法の厳格化、③「自宅等退院患者割合」(75%)の新設─等です。7対1病床の算定要件は2008年と2012年にも見直されましたが、今回の見直しははるかに厳しく、厚生労働省の大幅削減の強い意志が表れていると言えます。

政府は、これにより現在36万床ある7対1病床を2年間で9万床削減する方針と報道されています。2025年までには18万床減らし、7対1病床を半減させる方針との報道もあります。ただし、厚生労働省は公式にはこのような数値目標は一切示しておらず、2年間で9万床削減と明示している政府の公式文書は、財務省資料「財政制度等審議会『平成26年度予算の編成等に関する建議』の反映状況」(本年1月28日)だけです。しかも、そこではその根拠は示されていません。

しかし、多くの医療関係者はこの数値目標を既定の事実と考えているようです。私自身、2月初旬に行った講演で、「7対1病床削減で余った看護師は訪問看護等在宅に回るのか?」との気の早い質問を受けました。その際、私は7対1病床の大幅削減は困難との「客観的」将来予測を述べました。本稿では、私がこう判断する2つの理由を述べます。

「2025年モデル」オリジナル版と矛盾

第1の理由は、それが厚生労働省の掲げる医療の「2025年の姿」(以下、「2025年モデル」)と矛盾するからです。こう書くと、「厚生労働省は今改定を2025年に向けて医療提供体制の再構築を図るためと位置づけているのでは?」と疑問を持たれる方も多いと思いますが、実は厚生労働省の「2025年モデル」にはオリジナル版と修正版の2つがあり、私が取り上げるのはオリジナル版です。オリジナル版は、まだ民主党政権だった2011年6月2日の「社会保障改革に関する集中検討会議(第10回)」に厚生労働省が提出した「医療・介護に係る長期推計」に含まれていた「医療・介護サービスの需要と供給(必要ベッド数)の見込み」中の「改革シナリオ」です。

このシナリオは、2008年の社会保障国民会議報告で示された「医療・介護費用のシミュレーション」の推計手法を踏襲しつつ、目標値を大幅に引き上げたもので、2011年の一般病床107万床(区分なし)を2025年には高度急性期18万床、一般急性期35万床、亜急性期等(亜急性期・回復期リハ)26万床、地域一般病床24万床に再編することを予定していました。その際、急性期医療に「医療資源の集中投入」を行い、平均在院日数を大幅に短縮するとしていました。そのために必要な各病床ごとの職員数増加と平均在院日数の数値目標は、①高度急性期:2倍化、15〜16日、②一般急性期:6割増、9日、③亜急性期等:3割増、60日─とされました。

私は、一般急性期の平均在院日数を9日に短縮することは現実的ではないと疑問を持っていますが、平均在院日数短縮のために職員数増加が不可欠であるとの認識は妥当です。当然、このシミュレーションでは高度急性期と一般急性期では、看護配置基準を現行(7対1等)より大幅に引き上げることが想定されていると考えられます。

修正版では職員増が消失

ところが、保険局医療課は2011年11月25日の中医協(第208回)に「2025年モデル」の修正版(「現在の一般病棟入院基本料の病床数」)を提出しました。この図は、「2010年の病床数」を「一般病棟入院基本料」別の病床数分布(杯型)で図示し、それを2025年には「砲弾型」に変える「イメージ」を示したものです。ただし、2025年の4種類の病床の病床数は上記オリジナル版と同じでした。この図は、2010年の7対1病床が2025年の高度急性期に対応するように描いているため、現行の7対1病床は過剰で大幅に削減する必要があると認識・錯覚させる視覚的工夫(?)がなされていました。他面、オリジナル版に明示されていた、急性期医療への「医療資源の集中投入」は削除されました。

その後しばらく、厚生労働省はオリジナル版と修正版を併用していましたが、最近は修正版のみを示すようになり、「平成26年度診療報酬改定の概要」でも修正版のみが示されています。修正版を前提にすれば、7対1病床は高度急性期に限定され、一般急性期は10対1看護または13対1看護に引き下げられることになります。しかし、このような看護水準で一般急性期の平均在院日数を9日に短縮することは不可能です。逆に、7対1病床大幅削減と平均在院日数短縮の同時達成を目指すと、看護職の労働強化→離職増加→看護・病院危機が再燃する危険があります。

民間病院の「活力」を無視

私が7対1病床の大幅削減が困難だと考えている第2の理由は、民間病院の多くは「危機に際して『生き延びる』という意味での強い活力」を持っており、厚生労働省の診療報酬操作による誘導策に必死に対応・抵抗する可能性が大きいからです。

私には、7対1病床の大幅削減方針は、2006年の医療制度改革関連法に含まれていた「療養病床の将来像(案)」とダブって見えます。当時、厚生労働省は、医療療養病床を25万床から15万床に10万床(4割)も削減する計画を立て、そのために同年の診療報酬改定で医療区分1の患者の報酬を大幅削減しました。しかし、この直後から、医療療養病床の大半は、医療区分1の患者中心から同2・3患者中心への「シフト」を行い、その結果、医療療養病床の倒産・閉鎖はほとんど生じず、厚生労働省の願望とは逆に、医療療養病床数は増加しました。

冒頭に述べたように、今回の7対1病床の算定要件はきわめて厳しく、私もこれで数万床は減少すると思います。しかし、民間病院の上記「活力」を考えると、2年間で9万床の削減は困難、まして2025年までに18万床削減するのは不可能だと判断しています。

なお私は、診療報酬操作による医療機関誘導は万能ではなく、特定の医療サービスの点数を大幅に引き上げて、拡大を図るときには有効で、厚生労働省の当初の思惑を超えて拡大することも少なくないが、点数を下げたり施設基準を厳しくして、特定の医療サービスを減らそうとしても必ずしもうまくいかないとの「経験則」があると考えています。この「仮説」は今後、稿を改めて検証します。

 二木 立(日本福祉大学長)

にき りゅう:1947年生まれ。72年東京医歯大卒。代々木病院リハビリテーション科科長などを経て、2013年4月より現職。著書に『TPPと医療の産業化』『民主党政権の医療政策』(いずれも勁草書房)など。

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