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(14)徐々に食欲が低下した91歳女性[特集:備えておくべき重篤疾患の診かた─見落としを防ぐには]

No.4718 (2014年09月27日発行) P.74

編集: 本村和久 (沖縄県立中部病院プライマリケア・総合内科副部長)

嶋崎剛志 (佐久総合病院佐久医療センター総合診療科)

登録日: 2016-09-01

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  • 初期症状

    老年期うつ病で10年間ミアンセリン(テトラミド®)を内服しながら精神科に通院している91歳の女性。日常生活動作(activities of daily living:ADL)は自立(要介護度は2),冬になってから徐々に食欲が低下し1カ月ごとに計4回総合外来を受診。
    消化器症状はなく,いずれの受診時も問診,診察,検査(血液,尿,胸部X線,腹部超音波,頭部CT)で異常所見を認めず,経過観察となっていた。しかし症状は徐々に増悪し,体重は3カ月で計10kg減少した。最後の受診時に,消化器癌精査のため造影CTや内視鏡を実施する予定となっていた。しかし予約日を待たずにまったく食事が摂取できなくなり,嘔気も出現したため,休日の昼間に息子の嫁に連れられて救急外来を受診した。

    2. 考えられる疾患

    食欲中枢は視床下部にあり,迷走神経を中心とした求心性神経やホルモン,代謝産物など多数のシグナルを受け統合している。食欲の最終的な発現には心理,文化,社会的な要因も関与し,複雑なネットワークにより制御されている1)。
    そのため食欲低下の鑑別は非常に広く,極論すれば,病気になれば食欲は落ちることが多い。消化器疾患,感染症・膠原病など炎症性疾患,心不全,腎不全,呼吸不全,悪性腫瘍,代謝内分泌異常などの疾患,薬剤性,神経性食思不振症やうつ病,統合失調症,認知症などの精神疾患が鑑別に上がり,摂食・嚥下機能低下,高齢(anorexia of aging),入院などの環境変化だけでも食欲低下の原因となりうる。筆者は,死別した息子の嫁と住む父が食欲低下を主訴に入院,嫁のつくる食事が固くて食べにくいことが原因であったようで,食形態を変更しただけで症状が改善した症例を経験したことがある。
    身体疾患の食欲低下症例の多くには随伴症状があり,一般的に鑑別は絞りやすい。しかし,当初は随伴症状があっても,罹患期間が長くなると食欲低下の訴えだけが残ることもあり,発症時期の症状について問診する必要がある。薬剤性については内服開始日時期,薬の副作用を確認する。精神的な要因を考えるのであれば,うつ病のスクリーニング問診や改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R),時計描画検査(CDT)などの認知症スクリーニングを実施し,幻覚妄想の有無などを確認,最近の周辺環境の変化や仕事,人間関係などの変化について問診を行いながら食欲低下発症との関連について探る。
    高齢者では症状が非典型的であることが多く,症状が乏しいことも多い。また病歴聴取が困難なことも多いため,鑑別を広く持ち,時に検査の閾値を下げて診断を進める必要がある。
    本例では,救急外来受診日まで消化器症状などの随伴症状はなかったが,超高齢者であり鑑別を広めに,検査の閾値を下げて診療を進めた。

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