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(1)不眠と様々な睡眠障害[特集:眠れない患者に対応する]

No.4731 (2014年12月27日発行) P.18

堀 礼子 (愛知医科大学医学部衛生学睡眠科准教授)

登録日: 2016-09-01

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  • 不眠に悩む人は少なくない。

    不眠症には様々な表現型がある。

    2次性の不眠がある。

    1. 不眠は増加しているか?─ 疫学データから

    1 成人の約1/3にみられる不眠症状

    DSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th edition)1)によれば,成人の約1/3が不眠症状を持ち,10~15%が日中の機能障害の経験があり,6~10%が不眠障害の診断基準に合致する。プライマリケアにおいては,受診者の10~20%が不眠症状を訴える。不眠の訴えの男女比は1:1.44で,女性に多い。不眠のある者の40~50%に併存する精神疾患が存在する。

    2 不眠の有症率は約1/4

    これまで,わが国における成人の不眠症の全国調査がいくつか行われてきた。1997年に健康・体力づくり事業団が行った調査2)からは,不眠(1カ月間に入眠困難,中途覚醒,早朝覚醒の各症状が少なくとも1つ以上ある状態)の有症率(年齢調整)は男性22.3%,女性20.5%と推定された。同じく1997年に国立公衆衛生院が行った調査3)からは,不眠〔1カ月間に入眠困難または中途覚醒の状態(3回/週以上)が少なくとも1つ以上ある状態〕の有症率(年齢調整)は男性17.3%,女性21.5%と推定された。
    厚生労働省が2000年に行った保健福祉動向調査4)からは,不眠の各症状(入眠困難,中途覚醒,早朝覚醒)の有病率は,それぞれ男性で14.2%,18.1%,26.9%,女性で20.0%,23.4%,20.6%と推定された。各調査で「不眠」の定義が異なっており,増減を論ずることはできない。

    3 「よく眠れない」は意外に多い

    厚生労働省は,睡眠・休養についての調査を国民健康・栄養調査5)でも行っている。平成24年調査で「ここ1カ月間,睡眠で休養が十分にとれていない者の割合」は14.9%で前回平成21年の18.4%より減少した。「ここ1カ月間眠れないことが頻繁にあった者の割合」は,平成23年調査で男性13.2%,女性13.6%。平成22年調査で男性11.7%,女性14.5%。平成19年調査は休養(睡眠)が重点項目の1つで,不眠状況が詳しく調査された。「ここ1カ月常に,夜眠りにつきにくい」が男性3.8%,女性6.1%,「ここ1カ月常に,夜中に何度も目が覚める」が男性6.5%,女性7.8%,「ここ1カ月常に,朝早く目が覚める」が男性11.7%,女性9.1%であった。国民健康・栄養調査は近年,毎年行われている調査であるが,質問内容が一貫していないので,経年変化はわからない。

    4 上昇する睡眠薬の推定処方率

    睡眠診療報酬データを用いた向精神薬処方に関する実態調査6)によると,一般人口における睡眠薬の推定処方率は2000~08年まで増加していたが,09年では減少傾向になった(2005~09年の3カ月処方率は3.66~4.72%)。しかし,睡眠薬の処方率は男女とも加齢にしたがって顕著に増加しており,高齢化に伴って睡眠薬の処方率は増加する可能性がある。また,身体疾患に伴うものも含め,様々な睡眠障害が高齢者に多くみられること2),「高齢」が不眠症に対し促進的に関連する要因であること2)を考慮すると,少なくとも不眠をきたす睡眠障害は減っていないと思われる。

    5 眠らない社会構造への変化と睡眠障害

    24時間社会,グローバル化と言われるように社会構造が変化し,危機管理,公共施設,連続操業工場に関わる交替制勤務,これらに携わる人々に対するサービスのための交替制勤務は日常的になっている。深夜労働に従事している労働者数に関する統計資料は見当たらないが,厚生労働省による就労条件総合調査7)では,所定内深夜労働(22~5時までの間に行われる労働)がある企業の割合は平成13年は27.0%で平成17年は32.1%であり,増加しているようにみえる。しかし,これより前に行われた賃金労働時間制度等総合調査7)(平成8,10,11年)では,所定内深夜労働がある企業割合は25.2~33.1%であった。近年では,ほぼ3割の企業に所定内深夜労働があると考えてよいかと思われる。したがって,少なくない労働者が,本来のヒトが持っている生体リズムに逆らった生活をすることになり,睡眠障害に悩んでいると考えられる。

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