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(7) 糖尿病・内分泌代謝学[特集:臨床医学の展望]

No.4740 (2015年02月28日発行) P.45

河合俊英 (慶應義塾大学医学部内科学教室腎臓・内分泌代謝科専任講師)

伊藤 裕 (慶應義塾大学医学部内科学教室腎臓・内分泌代謝科教授)

登録日: 2016-09-01

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  • ■糖尿病・内分泌代謝学の現況と課題

    糖尿病の加療の本質は,微小血管障害や大血管障害などの合併症の出現,進行を予防することであり,食事・運動療法がその中心である。日本人2型糖尿病患者の合併症予防法の確立,生活習慣改善の意義の確立をめざして開始されたThe Japan Diabetes Complications Study(JDCS)の結果からは,運動の効果について,運動量の三分位の比較から,低運動量群に比べて高運動量群では脳卒中(ハザード比0.55),総死亡(同0.49)と有意にほぼ半減することがわかった。また,Japanese Elderly Diabetes Intervention Trial(J-EDIT)においても血糖コントロール状態と合併症出現率の関係が明らかになるなど,日本人でのエビデンスが集積しつつある。
    治療面では,新規に登場したsodium glucose co-transporter(SGLT)2阻害薬は,新しい作用機序による血糖低下作用,減量効果が期待される。また,持効型インスリン製剤デグルデク(トレシーバ)や,持続型のインクレチン製剤,新しい血糖測定機器などの使用経験も蓄積し,その成果報告も相次いでいる。さらには,BMI 35超の肥満者に対するスリーブ状胃切除術が保険適用となり,治療の選択幅が広がってきた。
    こうしたエビデンスから得られた情報やツールをいかに個々の患者に活用していくかが,我々にとっての大きな課題である。

    TOPIC 1

    SGLT2阻害薬

    2014年に新規に登場した糖尿病薬の中でも,SGLT2阻害薬はまったく新しい機序で血糖降下作用を発揮し,その効果が期待されている。一方で,その使用法には注意を要する。
    全世界中で2型糖尿病患者数が増加の一途をたどる中,欧米を中心に使用されてきたSGLT2阻害薬が,2014年にわが国でも使用承認された。
    健常人の腎臓では,約25〜35g/日の糖取り込み,約15〜60g/日の糖新生,さらには約180g/日の糖再吸収が行われ,正常血糖70〜100mg/dLに維持することに寄与している。この腎臓でのブドウ糖再吸収に重要な役割を果たすのは,腎近位尿細管上皮細胞の管腔側に局在するSGLTである。SGLTファミリーにはSGLT1〜6のサブタイプが知られているが,腎では,尿細管起始部S1セグメントに発現するSGLT2が尿のブドウ糖の約90%を再吸収し,残りの10%を下流側のS3セグメントに発現するSGLT1で再吸収する1)。健常人では,血糖上昇に伴い,腎糸球体濾過・再吸収速度も直線的に上昇するが,血糖値が170〜200mg/dLの腎閾値を超えると,尿に糖が排出しはじめる。これに対して糖尿病患者では,腎尿細管での糖の再吸収の割合が増加しており,高血糖状態に寄与する。さらに,糖尿病患者の近位尿細管上皮細胞ではSGLT2の発現が亢進しており,糖取り込みが増大する。
    SGLT2阻害薬は,糖尿病患者の近位尿細管でのブドウ糖再吸収を阻害し,尿糖排泄を促進し,血糖上昇を抑制する。SGLT2阻害薬による尿糖排泄は約50〜80g/日で,カロリー換算で約200〜320kcal/日に相当する。尿細管の下流に発現するSGLT1は,小腸にも発現しており,SGLT1の阻害は小腸での糖の再吸収の遅延に関与し血中インクレチン濃度にも影響を及ぼすことが示唆されている。したがって,SGLT2阻害薬の選択性の高さによる糖代謝への影響については,今後臨床から得られる知見の集積が待たれる。
    わが国では,実地臨床ではイプラグリフロジン,ダパグリフロジン,ルセオグリフロジン,トホグリフロジン,カナグリフロジンの5種類のSGLT2阻害薬が使用できるが,これまでは米国を中心にカナグリフロジン,欧州を中心にダパグリフロジンの使用成績の報告が多い。わが国でも承認が見込まれるエンパグリフロジンを含め,計6種類のSGLT2阻害薬の有効性と使いわけについては,今後の展開,知見の集積によるところが大きい2)。既報およびわが国での治験の成績からは,用量,併用,対象などに差はあるものの,各薬剤ともに,6カ月〜1年後に,HbA1cで約0.5〜1.0%程度の血糖改善効果,約1.5〜3.0kg程度の体重減少効果が示されている。さらには付加的に,血圧低下作用,脂質改善効果を認めたとする報告もある。
    新薬の使用時には,患者への安全性,副作用に十分に注意を払う必要がある。ことにSGLT2阻害薬は,生理的な機構を破綻させる薬剤とも言えるため,長期的な安全性が確立されるまでの間も慎重な患者の状態の把握に努める。SGLT2阻害薬については,本薬剤の作用機序から,①低血糖症状,②浸透圧利尿による体液量減少・脱水に伴う症状,③シックデイ時の対応・ケトーシス予防,④全身皮疹,紅斑,⑤尿路感染症,性器感染症,などが注意点,副作用として報告されてきた。最近では,SGLT2阻害薬の市販後調査で,本薬剤を使用していた患者10名が死亡していたことが報告された。脱水による虚血症状が誘因になった可能性が示唆されている。日本糖尿病学会を中心とした「SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会」では,SGLT2阻害薬の使用に際し,表1の注意勧告を発している3)

    【文献】
    1) Chao EC, et al:Nat Rev Drug Discov. 2010;9(7): 551-9.
    2) Suzuki M, et al:J Pharmacol Exp Ther. 2012; 341(3):692-701.
    3) SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会:SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation
    [http://www.jbs.or.jp/modules/important/index.php?page=article&storyid=48]

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