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筋力低下時の血清K値をどう解釈するか? 【自覚症状が現れる低K血症のレベルは?】

No.4844 (2017年02月25日発行) P.61

永井 聡 (NTT東日本札幌病院糖尿病内分泌内科部長)

登録日: 2017-02-22

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  • 75歳,男性。4年くらい前からふらつき,転倒しそうになる両下肢の筋力低下があります。血液検査でときにCK,アルドラーゼ,ミオグロビンがやや高値。臨床的には慢性多発筋炎,封入体筋炎が疑われますが,MRIで脳,頸椎,胸椎に異常なく,両下肢に筋肉異常信号が少し認められ,何らかの変性や浮腫が疑われる由。
    さて,血清カリウム(K)が3.5~4.0mEq/Lと少々低めです。食事は偏っていて,1日のK摂取量は11.2mEqと非常に少量のため,グルコンサンK細粒6mEq/日(それ以上は下痢をするため)を摂り,下剤も連用しています。尿中Kが18mEq/日と低値です。腎機能は推算GFRcreat 83mL/分と正常です。グルコンサンKを中止したり下痢をしたりすると,両下肢の症状は少し増悪します。
    (1)血清K値と全体の98%を占める細胞内Kとは,100%相関しますか。
    (2)K摂取が極少量でも血清K値が基準値内なら,K欠乏状態と考えなくてよいでしょうか。
    (3)血清K 3.0mEq/Lまでは自覚症状はほぼないと成書にはありますが,個人差はありますか。
    (4)K摂取量が極端に少なくても,腎機能が正常であれば,調整できるものでしょうか。
    (5)K摂取量が極度に少ない状態が慢性的に続けば,細胞内Kにも影響し,筋肉にも慢性的な変化が起こってくる可能性は考えられるでしょうか。
    NTT東日本札幌病院・永井 聡先生に,ご教示をお願いします。

    (質問者:静岡県 M)


    【回答】

    体内の総K量3000~4000mEqのほとんどは細胞内に存在し,細胞外Kはわずか2%とされています。細胞内Kはインスリンやカテコールアミン,酸塩基平衡や循環血漿量によりNa- K ATPaseを通じて調節されていますが,Kの摂取量や排泄量によって規定される総K量の変化は,細胞内よりも細胞外のほうがより大きな影響を受けています。

    総K量が200~400mEq失われると血清Kは4.0mEq/Lから3.0mEq/Lに低下し,さらに同程度のKの喪失により2.0mEq/Lまで低下します。しかし,それ以上の低K状態をきたすことは稀で,細胞内Kがバッファーとして働き,細胞外K濃度の低下を防いでいます。また酸塩基平衡の異常やインスリン作用不全などの病的状態においては,全身の恒常性を保つために,細胞内外のK量が変化して対応します。

    Kの摂取不足が続くと,腎臓において,主に集合管のK分泌が抑制され,尿中K排泄は1日15~25mEq以下となり,血清Kを維持するように働きます。

    低K血症は一般的には血清K値3.0mEq/Lまでは自覚症状をきたさず,特に慢性的で緩徐な経過においては自覚症状が乏しいことが多いとされます。一方,血清K値が急激に低下する際や,低Kによる薬物有害事象をきたしやすい薬剤(ジギタリスなど)の投与時は,血清K値が3.0mEq/L以上でも,自覚症状をきたす可能性はあります。

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