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措置入院見直し、注意深い検証を [お茶の水だより]

No.4815 (2016年08月06日発行) P.15

登録日: 2016-08-06

最終更新日: 2016-10-30

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相模原市の障害者施設の入所者らが、元施設職員の植松聖容疑者に刃物で刺され、45人が死傷した。植松容疑者は犯行前の一時期、精神保健福祉法に基づく措置入院となっていた。このため塩崎恭久厚生労働相は事件翌日、措置入院制度を見直す意向を表明。今月中にも検討が始まる見通しだ。
植松容疑者は今年2月、衆議院議長公邸前を訪れて犯行を仄めかす内容の手紙を警備員に預け、職場でも同僚に障害者殺害の意思を話したという経緯から、措置入院の手続きがとられた。入院中、血液・尿から薬物反応が検出され、「大麻精神病」などの診断が下されたことも報じられている。
措置入院は、指定医2名の診断に基づき、精神疾患のために自傷・他害の恐れがある者を都道府県の命令で入院させる制度で、その恐れが解消されたと指定医が判断すれば退院できる。安易に入院要件を緩和すれば戦前の予防拘禁の復活を招きかねない一方で、いたずらに退院要件を厳格化すれば近年の精神障害者の地域移行の方向性に逆行し、人権侵害になる可能性もある。また、見直し議論が指定医や精神医療に犯罪防止機能を求める方向へ向かうことも、適切とは言えないだろう。
精神科医の斎藤環氏はTwitter上で、強制入院が犯行を後押しした西鉄バスジャック事件を挙げつつ、措置入院が植松容疑者の孤立を深めた可能性を指摘している。故・岡江晃氏の『宅間守精神鑑定書』(亜紀書房)などの記録が示すように、措置入院となる者の中には、精神疾患の診断を得るために傷害を重ねる者もおり、指定医の診断が必ずしも適切と言えない事例もある。措置入院制度の見直しに当たっては、植松容疑者の事例を注意深く検証する必要があるだろう。

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