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SSRIでは寛解しない強迫症における薬物療法のさらなる一手 【SSRI抵抗性強迫性障害患者には抗精神病薬を付加投与する増強療法が用いられている】

No.4815 (2016年08月06日発行) P.56

松永寿人 (兵庫医科大学精神科神経科主任教授)

登録日: 2016-08-06

最終更新日: 2016-10-30

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【Q】

強迫症(強迫性障害,obsessive compulsive disorder:OCD)の薬物療法では,第一選択薬として選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor:SSRI)が用いられることが多いのですが,それだけで症状が軽快しない重症の患者も大勢います。そこで,SSRIでは寛解しないOCDにおける薬物療法のさらなる一手について,兵庫医科大学・松永寿人先生のご教示をお願いします。
【質問者】
塩入俊樹:岐阜大学大学院医学系研究科精神病理学分野 教授

【A】

SSRIはOCDに対する第一選択薬ですが,その効果は限定的であり,中等度以上の改善を示すものの割合は50%程度とされています。2剤以上のSSRI(クロミプラミンを含む)の十分量,十分期間の投与に対して,いずれにも反応性が乏しい,いわゆるSSRI抵抗性のOCD患者も少なくありません。このようなSSRI抵抗性OCD患者に対しては,特定の薬剤をSSRIに付加することによる増強療法が用いられています。
この中では,保険適用外ではありますが,(非定型)抗精神病薬の付加投与は,現在最も効果が期待されます(文献1)(文献2)。これは当初,ハロペリドール(セレネース)が試みられ,特にチック障害などを併存しSSRI抵抗性を示すOCD患者への有効性が注目されました。その後は,リスペリドン(RIS;リスパダール),オランザピン(OLZ;ジプレキサ),クエチアピン(QET;セロクエル)など,各種非定型抗精神病薬の付加投与の有効性が検証されており,チック関連などの有無にかかわらず,SSRI抵抗性OCD患者に有効であることが示されています(文献3)。しかし,OLZやQETの付加投与については,その有効性を支持する十分なエビデンスは示されていないという指摘もあり(文献4),最近ではアリピプラゾール(APZ;エビリファイ)付加投与の有効性,安全性が報告されています(文献5)。また最近の総説によれば,低用量のRIS(0.5~9mg/日),あるいはAPZ(10 or 15mg/日)をSSRIに併用した場合のみ,統計的に有意な有効性が示されており,これらを使用する場合は,4週間継続してみて効果や安全性を判定する必要があります(文献6)。
注意すべき副作用として,非定型抗精神病薬では肥満や糖尿病などの代謝関連性リスクがおおむね共通しており,これをSSRIに付加する場合にも同様です(文献7) 。この点は,各非定型抗精神病薬の薬理学的特性のみならず,SSRIとの薬物間相互作用にも注意が必要と考えます(文献7)。

【文献】


1) Koran LM, et al:Am J Psychiatry. 2007;164(7 Suppl):5-53.
2) 松永寿人:精神科治療. 2011;26(増刊):56-67.
3) 松永寿人:専門医のための精神科臨床リュミエール15─難治性精神障害へのストラテジー. 中込和幸, 編. 中山書店, 2010, p85-97.
4) Skapinakis P, et al:Eur Neuropsychopharmacol. 2007;17(2):79-93.
5) Masi G, et al:J Clin Psychopharmacol. 2010;30(6):688-93.
6) Veale D, et al:BMC Psychiatry. 2014;14:317.
7) Matsunaga H, et al:J Clin Psychiatry. 2009;70(6):863-8.

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