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パーキンソン病における不眠の原因と治療法【様々な原因があり,それぞれ対処法が異なる。原因を検索し,それに応じた治療を行う】

No.4812 (2016年07月16日発行) P.58

岡 靖哲 (愛媛大学医学部附属病院睡眠医療センター長)

登録日: 2016-07-16

最終更新日: 2016-12-16

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【Q】

パーキンソン病では不眠を訴える人が多くいます。どのような原因と非薬物治療や薬物治療があるか教えて下さい。愛媛大学・岡 靖哲先生にお願いします。
【質問者】
平野成樹:千葉大学大学院医学研究院神経内科学講師

【A】

不眠を含む睡眠障害は,パーキンソン病の非運動障害として,患者のQOLにも大きく影響します。パーキンソン病では入眠までの時間が延長し,総睡眠時間が短縮して睡眠効率が低下し,睡眠が分断化することから,不眠の訴えは高頻度にみられます。その原因としては,睡眠・覚醒機構に関連するニューロンの変性や,パーキンソン病症状に関連する睡眠の障害,抑うつや幻覚・妄想に伴う不眠,パーキンソン病に合併した睡眠障害による不眠があり,それぞれ対処法が異なります。
全般的な不眠治療としては,まず睡眠環境・睡眠衛生改善を中心とした非薬物治療を行います。良好な夜間の睡眠には,日中の一定以上の覚醒と活動が必要であり(恒常性維持機構),日中は寝床で過ごさず十分な活動をするよう心がけ,特に長時間の昼寝を避けることが重要です。昼寝で深い睡眠をとらないようにして,長くても30分以内にとどめ,特に夕方以降には寝ないように注意します。また,睡眠覚醒のリズムを一定に保つことも重要であり(体内時計機構),就床・起床時刻はできるだけ毎日そろえ,朝~午前中には十分な光を浴びるようにします。日光の入る窓辺で過ごしたり,朝に散歩をするのも有効です。また,年齢とともに睡眠時間は減少する傾向があり,長時間寝床で過ごしすぎると,入眠障害・中途覚醒・早朝覚醒を増強し,熟眠感が得られない原因となります。薬物治療としては不眠症治療薬を用いますが,ふらつき・転倒リスクや持ち越し効果を考慮する必要があり,持続時間の短い非ベンゾジアゼピン系薬剤や,筋弛緩作用のないメラトニン受容体アゴニストやオレキシン受容体拮抗薬から処方を開始し,同系統の多剤併用は避けるようにします。
パーキンソン病症状に関連する,無動・寝返り困難や振戦に対しては,就床前のL-ドパやドパミンアゴニスト投与が有用です。抑うつや幻覚・妄想が不眠の原因となる場合には,それぞれに応じた薬物治療を行います。
パーキンソン病では,レストレスレッグス症候群(下肢静止不能症候群,restless legs syndrome:RLS)や睡眠時無呼吸症候群などを合併する頻度が高く,これらに伴う不眠も治療対象となります。RLSでは,下肢を動かさずにはいられない欲求を伴う入眠の障害,再入眠困難を生じますが,ドパミンアゴニストの調整やクロナゼパム投与で対処します。睡眠時無呼吸症候群は中途覚醒や熟眠障害を呈しますが,中等症以上の場合には経鼻持続陽圧呼吸療法(continuous positive airway pressure:CPAP)を行います。
パーキンソン病患者の不眠には様々な背景が混在していることから,不眠の原因を検索し,原因に応じた治療を行うことが重要です。

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