閉経前後の女性に子宮全摘出術が予定される場合,将来の残存卵巣からのがん発生を予防するために卵巣摘出術を行うことがある。また,卵巣癌や子宮体癌では進行期分類に卵巣摘出が必要であり,有経女性であっても卵巣が摘出されることが多い。卵巣は女性にとって重要な内分泌臓器であり,卵巣摘出が健康にどのような影響を与えるのか,また,卵巣摘出によるsurgical menopauseと自然閉経との違いを知っておくことが,術後女性のヘルスケアを考える上で重要である。
高橋ら(文献1)の報告によると,米国では年間30万人以上が卵巣摘出術を受けており,公衆衛生上重大な問題になっている。surgical menopauseの場合,自然閉経に比較して更年期症状の発現頻度が高く,より重症であることが報告されている。また,45歳未満で卵巣摘出術を行うと,卵巣温存群に比較して生存率は有意に低下し(HR:1.96,95%CI;1.28~3.01),さらに50歳未満で卵巣摘出術を行うと,心血管系疾患の発症リスクが増加する(RR:4.55,95%CI;2.56~8.01)。
米国Nurses’Health Studyは,45歳未満で卵巣摘出術を行うと冠動脈疾患発症のリスクが増加する(HR:1.26,95%CI;1.04~1.54)と報告している。一方,予防的卵巣摘出術を行うと卵巣癌,乳癌の発症率は減少したが,肺癌,脳卒中の発症率は増加し,すべての原因による死亡率も増加することが示された。そのため米国Nurses’Health Studyでは,「予防的卵巣摘出術が患者にメリットをもたらす年齢はない」と結論づけている。
1) 高橋一広, 他:日産婦会誌. 2011;63(12):N-218-22.