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神経膠腫に対する近年の遺伝子解析

No.4695 (2014年04月19日発行) P.58

若林俊彦 (名古屋大学脳神経外科教授)

登録日: 2014-04-19

最終更新日: 2021-01-06

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原発性脳腫瘍は年間人口10万対11~12人発生すると言われ,組織分類別の発生頻度は神経膠腫(28%),髄膜腫(26%),下垂体腺腫(17%)などである。神経膠腫はWHO分類では予後良好群から予後不良群へgradeⅠ~Ⅳに細分類されるが,悪性神経膠腫(gradeⅢ~Ⅳ)は浸潤性・播種性に発育する傾向が強く,特に,膠芽腫(grade Ⅳ)の生存期間中央値は14.6カ月,5年生存率は6%で治癒不能な疾患である。しかし,近年,本腫瘍のゲノム・エピゲノム・プロテオーム解析により予後良好因子の同定が進んできた(文献1)。
たとえば,DNA修復酵素MGMTのプロモーター領域のメチル化は,放射線化学療法後の腫瘍の縮小,全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)の延長に関連し,年齢や一般状態(KPS)よりも強い予後因子であるとされる。また,遺伝子の網羅的解析の結果,IDH1という解糖系酵素の遺伝子変異が膠芽腫の12%に認められ,IDH1遺伝子変異のある膠芽腫は変異のない膠芽腫に比べて生存期間が有意に長く,有用な予後因子であることが判明している(文献2)。
さらに,The Cancer Genome Atlas(TCGA)proj-ectの結果として,神経膠腫遺伝子発現のプロファイリング解析を施行して4種の亜分類(Neural, Proneural, Mesenchymal, Glial)を試みており,今後の解析結果によっては,急速に個別化・層別化医療へ進展する可能性を秘めている。

【文献】


1) Committee of Brain Tumor Registry of Japan: Neurol Med Chir (Tokyo). 2003;43(Suppl i-vii): 1-111.
2) 日本脳腫瘍病理学会 編:脳腫瘍臨床病理カラーアトラス. 第3版. 医学書院, 2009.

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