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歯性上顎洞炎の原因歯の取り扱い

No.4725 (2014年11月15日発行) P.58

佐藤公則 (佐藤クリニック耳鼻咽喉科・頭頸部外科・睡眠呼吸障害センター)

登録日: 2014-11-15

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

保存的治療に抵抗性の片側性上顎洞炎(副鼻腔炎)で根尖病巣が疑われる症例にしばしば遭遇します。上顎洞炎に対しては手術療法も検討しますが,原因歯に対しては抜歯や歯内療法が必要か,判断に苦しむ場合も少なくありません。また,副鼻腔手術を行う場合,歯科治療と同時期でもよいか,どちらかを優先させたほうがよいのか悩む場合もあります。佐藤クリニック・佐藤公則先生は,歯科治療の必要性やその時期についてどのようにお考えでしょうか。
【質問者】
川村繁樹:川村耳鼻咽喉科クリニック

【A】

歯性感染症としての歯性上顎洞炎の病態が最近変化しています。特徴的なのは,未処置の齲歯(歯髄死歯)が歯性上顎洞炎の原因歯になることは稀になり,修復治療,歯内療法などの歯科治療後の歯が原因歯になる例が多くなったことです。最も多い原因歯は,歯内療法の際に根管処置(抜髄,根管充塡)が根尖部の根管まで十分に行われていない根管処置歯です。したがって,歯科治療後の歯で口腔内所見上齲歯がなくても,歯性上顎洞炎の原因歯として疑うことが非常に大切です。
診断に関しては,コーンビームCTの出現により,歯性上顎洞炎の病態の診断がより正確に行えるようになりました。問題は歯性上顎洞炎の原因が歯科治療後の根尖病巣である場合,上顎洞炎の治療に優先して再度の歯科治療を行うのか,あるいは抜歯を行うのかです。
「歯(根管処置歯)は悪くありません」と,患者さんは既に歯科で説明を受けている場合が多く,歯科に紹介しても同様の結果を得る場合が少なくありません。実際の臨床では既存の根管処置歯に対して根管処置などの歯内療法を再度行うのは困難なことが多く,既存の根管処置歯の根尖病巣を治癒させるのは容易ではありません。その結果,抜歯が行われますが,抜歯を行っても歯性上顎洞炎が治癒するとは限りません。患者さんは骨植がよく機能していた歯を失ったにもかかわらず,歯性上顎洞炎は治癒しないという事態に陥ります。
このような場合,私は上顎洞炎の治療を優先させています。すなわち処置,薬物療法,内視鏡下副鼻腔手術などにより,上顎洞(副鼻腔)の換気(ventilation)と排泄(drainage)を改善させ,消炎療法を行うことで,上顎洞炎を治癒に導く治療を優先させています。
原因歯が歯科処置後の歯の場合,たとえ根尖病巣を伴っていても,無症状であれば抜歯せずに保存できる場合が少なくありません。消炎療法後の原因歯は無症状の根尖病巣を伴った歯として機能します。

【参考】

▼ 佐藤公則:現代の歯性上顎洞炎─医科と歯科のはざまで. 九州大学出版会, 2011.
▼ 佐藤公則:日耳鼻会報. 2001;104(7):715-20.
▼ 佐藤公則:耳鼻臨床. 2006;99(12):1029-34.
▼ 佐藤公則:日歯評論. 2013;73(12):73-83.

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