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進行性核上性麻痺における眼球運動異常の診かた

No.4717 (2014年09月20日発行) P.60

清水夏繪 (帝京大学名誉教授)

登録日: 2014-09-20

最終更新日: 2018-11-27

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【Q】

特発性正常圧水頭症(idiopathic normal-pressure hydrocephalus:iNPH)患者には,進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy:PSP)が高率に共存しています。iNPHは主に3徴(歩行障害,認知障害,尿失禁)に注目して診断されていますが,共存するPSPを診断するためには,眼球運動異常を適切に評価する必要があります。NINDS-SPSP(the National Institute of Neurological Disorders and Stroke and the Society for PSP)臨床診断基準で,possible PSPの診断項目になっている下記の具体的な評価法(診察手技)を帝京大学名誉教授・清水夏繪先生に。
(1)垂直性核上性注視麻痺(vertical supranuclear gaze palsy)
(2)垂直方向の衝動性眼球運動の緩徐化(slowing of vertical saccades)
【質問者】
森 敏:滋賀県立大学人間看護学部学部長

【A】

(1)垂直性核上性注視麻痺
核上性注視麻痺は外眼筋を直接支配する眼運動神経核(第Ⅲ,第Ⅳ,第Ⅵ脳神経核)より中枢での障害による麻痺です。したがって,何らかの方法で眼運動神経核を刺激できれば眼球は動くはずです。臨床の場では頭部眼運動手技(人形の目試験)を行います。この手技では前庭動眼反射,頸筋の固有感覚による頸部眼反射,視覚の関与する注視や動く視標を追随する眼球運動が関与しますが,前庭系が正常な意識のある人では,頸部眼反射の関与は少なくなります。
具体的な診断手技は,被検者の眼前約30cmに検者の指などを視標として提示し,注視するように指示して視標をゆっくり上方(または下方)へ動かします。上方(または下方)への眼球運動が途中で停止し,いくら視標を動かしても上方(または下方)へ動かなくなったら,注視を続けるように指示して,被検者の頭部を他動的に前屈(または後屈)します。このとき,眼球がさらに上転(または下転)すれば垂直性核上性注視麻痺と診断できます。前庭動眼反射は頭部を比較的急速に動かすと起こりやすくなります。観察者と頭部を動かす人の2人で行うとよいと思います。

(2)垂直方向の衝動性眼球運動の緩徐化
衝動性眼球運動の緩徐化は注視麻痺の出現より早くからみられます。垂直性衝動性眼球運動(ver-tical saccadic eye movements)は視標を被検者の眼前約30cmで,正中より上10度,下10度くらいの所に交互に提示し,それを注視するように指示すると誘発されます。一方,視標を下から上へ,ついで,上から下へゆっくり動かし,動いている視標を追うように指示すると緩徐な追随眼球運動(pursuit eye movements)が誘発されます。正常者と比べてsaccadeの速度が緩徐だと認識できれば診断してよいと思います。
正確には眼球運動を記録して速度を定量的に測定することが必要です。saccadeの速度は運動の始まりと終わりでは遅く,最大速度はsaccadeの振幅にほぼ比例します。正常者では振幅20度のsac-cadeで約350度/秒です。saccadeの速度は日差,個人差があり,また,意識レベル,薬物の内服などの影響を受けますが,振幅20度のsaccadeで190度/秒が正常下限との報告があります。
saccadeの緩徐化が進行すると追随眼球運動のようにみえます。正常者では視標速度が90度/秒まではpursuit gain(追随眼球運動速度/視標速度)は0.86で,動く視標を追うことができます。

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