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てんかん重積状態と心静止

No.4759 (2015年07月11日発行) P.61

永山正雄 (国際医療福祉大学熱海病院神経内科 脳卒中・神経センター長)

登録日: 2015-07-11

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

No.4693(2014年4月5日)の学術論文「非痙攣性てんかん重積状態の臨床」に,側頭葉てんかんに心静止が合併するとの記載(p30)があります。その詳しい機序,ほかの側頭葉てんかんとの違いなどについて,著者の国際医療福祉大学熱海病院・永山正雄先生に。(福岡県 S)

【A】

[1]非痙攣性てんかん重積状態(NCSE)の新たな臨床像
2012年,Neurocritical Care Societyはガイドラインで,てんかん重積状態を「臨床的あるいは電気的てんかん活動が少なくとも5分以上続く場合,あるいはてんかん活動が回復なく反復し5分以上続く場合」と新たに定義しました(文献1)。てんかん重積状態は全身痙攣重積状態(generalized convulsive status epilepticus:GCSE)と非痙攣性てんかん重積状態(nonconvulsive status epilepticus:NCSE)に分類されます。
最近の筆者の検討で,(1)NCSE例はGCSE例よりも多く(GCSE単独5例,NCSE単独15例,両者合併10例),(2)一般に重症患者の脳神経系合併症はてんかん発作(痙攣性,非痙攣性)が最も多い,すなわち急性症候性発作であることが明らかになりました(文献2)。
NCSEは多くを占める複雑部分発作型と欠神発作型に分類されます。NCSEの古典的臨床像として凝視,反復性の瞬目・咀嚼・嚥下運動,自動症,意識変容などが知られていました。しかし,1990年代以降のモニタリング技術の進歩により,急性昏睡,認知症,健忘症が,そして筆者(文献3)により,遷延性昏睡,Kluver-Bucy症候群も,NCSEの新たな表現型であるということが明らかになりました。
[2]てんかん関連臓器機能障害(Epi-ROD)
GCSEは様々な臓器障害を合併しますが,NCSEでも過換気後遷延性無呼吸発作が新たな表現型として認識されるべきことが,筆者と黒岩義之横浜市立大学教授(当時)による解析結果から示されました(文献4)。その後,側頭葉てんかんの経過中の心静止合併例(文献2)が相次いでLancet,New Eng-land Journal of Medicineに報告されました。
さらにEpilepsy Monitoring Unit(EMU)による国際多施設共同系統的後ろ向き研究では,(1)モニタリング中の心肺停止イベントは総計29例で,内訳はSUDEP(sudden unexpected death in epilepsy) 16例,near SUDEP 9例,他4例,(2)SUDEP例でデータがある10例全例で,二次性全般化した強直間代性痙攣の後に頻呼吸(18~50回/分),さらに3分以内に心肺機能障害,さらに心停止が続発していました。SUDEPの病態には,最終的に不整脈と低換気または低酸素症の関与が推定されていますが(文献5) ,この報告は突然死,急性心停止の病態へのNCSEの密接な関与を示すものと言えます。
複雑部分発作型NCSEの焦点にもなる島皮質や帯状回前部,扁桃体,視床下部,脳幹網様体などからなるcentral autonomic networkは,心循環系のほか,自律神経活動の高位中枢です。
筆者は「少なくとも難治性不整脈,呼吸パターン障害や諸種代謝障害の一部はてんかん性自律神経高位中枢機能障害が関与している」との仮説を提示し,てんかん関連臓器機能障害〔epilepsy-related organ dysfunction:Epi-ROD,てんかん重積状態(痙攣性あるいは非痙攣性)による致死的あるいは高度機能障害を呈する各種臓器機能障害〕の概念を提唱しました(文献3)。
たとえ明らかな痙攣発作がなくとも,急性臓器機能障害,特に原因不明例の鑑別診断にNCSEを加えること,またEpi-RODの病態解明の重要性が強調されます(文献6)。

【文献】


1) Brophy GM, et al:Neurocrit Care. 2012;17(1):3-23.
2) 永山正雄:Brain Nerve. 2015;67(5):553-62.
3) 永山正雄:Brain Nerve. 2013;65(5):561-72.
4) 永山正雄:神経内科. 2009;71(3):232-6.
5) Devinsky O:N Engl J Med. 2011;365(19):1801-11.
6) 井上有史, 永山正雄, 他:Brain Nerve. 2015;67(5):545-52.

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