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主治医意見書の開示請求への対応

No.4755 (2015年06月13日発行) P.67

村山淳子 (西南学院大学法学部法律学科教授)

登録日: 2015-06-13

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

以下についてご教示下さい。
(1)認定に係る本人(あるいはその家族)か
ら介護保険の主治医意見書の開示請求があった場合,基本的には同意しなければならないのでしょうか。
(2) 相続争いや医療機関相手の訴訟に使用する場合,特別養護老人ホームに入所する場合は同意しなくてよいのでしょうか。 (東京都 K)

【A】

詳細は各市町村の条例や運用によっても異なりますが,考え方としては以下の通りです。
[1]本人あるいは家族からの開示請求への対応
認定に係る本人(家族については後述する)から介護保険の主治医意見書の開示請求があった場合,基本的には同意しなければなりません。
介護保険の主治医意見書は,カルテやレセプトと同様,患者の個人情報に属するものです。そのため,患者は自己に関する主治医意見書について,憲法の保障する自己情報コントロール権(自己の情報を自らコントロールする権利)を有しており,個人情報取扱事業者(定義については個人情報保護法第2条第3項参照),独立行政法人,そして地方公共団体などに対して,開示を請求できるというのが,現行法の基本的な立場です。
ただし,家族からの開示請求である場合は,自己の個人情報ではなく,他人の個人情報をその法定代理人として開示請求する立場になるため,別の考慮が必要です。すなわち,本人の意思(判断能力の有無も含めて)や利益に明らかに反するような開示請求ならば,医師としても,これに同意してはなりません。
[2]相続や訴訟などに使用される場合の対応
相続争いや医療機関相手の訴訟に使用する場合,特別養護老人ホームに入所する場合であっても,その理由だけでは上記の判断に変わりはありません。
本人が開示を望む以上は,たとえば権利の濫用にあたるようなケースでない限りは,開示請求に同意しなければなりません。そもそも,自己情報コントロール権とは,個別の事情に立ち入ることなく,およそ個人情報の取り扱いを本人の意思にゆだねる趣旨の権利であるからです。
ただし,例外的に開示が,(1)本人や第三者の生命,身体,財産その他の権利利益を害する恐れがある場合,および(2)(この場合質問者の)業務の適正な実施に著しい支障を及ぼす恐れがある場合,には開示しないことが許されることがあります(医師の「治療上の特権」の概念に加えて,個人情報保護法第25条第1項,独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律第14条なども参照)。
たとえば,開示することで患者がショックを受け,病状が悪化することが危惧される場合などが考えられます。
また,家族からの開示請求の場合,特に相続や訴訟などが絡む場合には,家族が自身の利益を図って開示請求することも考えられるため,[1]で述べた点にいっそう配慮するべきです。

【参考】

▼ 村山淳子:専門訴訟講座4 医療訴訟. 浦川道太郎, 他, 編. 民事法研究会, 2010, p104-36.

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