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脳梗塞発症後の職業運転手の運転再開判断基準と注意点

No.4755 (2015年06月13日発行) P.61

武原 格 (化学療法研究所附属病院リハビリテーション科 部長)

登録日: 2015-06-13

最終更新日: 2018-11-27

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【Q】

以下のような病態の職業運転手に対する運転再開に関してご教示下さい。
63歳,男性のバス運転手。21年前から,高血圧,異型狭心症,脂肪肝,脂質異常症のため通院していました。本年2月15日にろれつが回らなくなり,翌日神経内科を受診したところ,MRIで心原性脳梗塞(心内血栓なし)と診断されました。その後,目立った麻痺はみられず,2月23日に退院。退院後は散歩などで自宅療養し,4月から職場復帰しています。仕事内容は事務仕事や場内配車のみバス移動をしているとのことです。なお,通勤では自家用車を運転しています。
MRI:右前頭葉に亜急性梗塞像,起立性低血圧:136/80→122/74mmHg,血液検査:TG 237mg/dL以外はおおむね正常範囲。
診断書には「上記で通院中。症状は落ちついているので,一般的就労は可能であるが,運転は控えることが望ましい」と記しました。
(1) 職業運転手の運転再開について判断基準や目安となる検査や所見。
(2) 診断書に関する注意点。 (愛知県 Y)

【A】

日本てんかん学会からの2012年の「てんかんと運転に関する提言」では,てんかんのある人の大型免許および旅客輸送に関わる免許について,抗てんかん薬なしで5年(過去に1回のみ非誘発発作があったもの)または10年(同,2回以上)の経過観察期間に発作の再発がないもの以外は,大型免許および旅客輸送に関わる免許の取得や更新を勧めていません。
しかし,てんかんに関わらない脳梗塞や脳出血などの脳卒中患者においては,法的規制や学会などによる提言もなされていません。職業運転手にかかわらず,一般運転手においても,道路交通法において脳卒中などの病気に伴い安全な運転に必要な認知または操作のいずれかの能力を欠く場合は免許証の更新ができないことがあると記載されていますが,実際にどの検査を行い,どの程度の問題であれば運転を行うことを控えるべきであるといった明確な指針は示されていません。
本症例においては,通勤に用いている自家用車の運転再開の時点で,まず運転免許センターに行き適性相談を受け,必要に応じて適性検査を受ける必要があります。その際,医師の診断書が求められます。診断書の記載については,本症例の場合は高血圧や異型狭心症,脳梗塞などの医学的問題が適正に管理されていること,視力や視野に問題がないこと,右前頭葉に脳梗塞所見を認めるため注意や遂行機能など高次脳機能障害がないことを確認する必要があると思われます。なお,二種免許の視機能には,視力,視野,赤・青・黄の色彩識別能力のほか,深視力の検査があります。
職業運転手の運転再開について明確な判断基準や目安となる検査はありませんが,筆者らが脳卒中後に運転再開を行った患者に対して,運転再開前の身体機能と高次脳機能を評価し,1年以上経過した時点で運転再開と事故の有無との関係を調査した報告(文献1)では,高次脳機能評価にあたって,知的機能検査としてMini-Mental State ExaminationとKohsIQを,注意力検査としてTrail Mak-ing Test AおよびB,Paced Auditory Serial Addition Test 1秒および2秒を,半側空間無視検査としてBehavioural Inattention Testを,記銘力検査としてWechsler Memory Scale-Revisedを行いました。しかし,通常これらの検査すべてを行うことは困難と思われるため,リハビリテーション病院などに相談するのが現実的と思われます。
診断書に関しては,医学的問題が適正に管理されていない場合や,高次脳機能障害などで安全運転が明らかにできない場合などでは,当然運転を控えさせるべきです。ただし,過剰に運転をやめさせるよう働きかけることは運転する権利を損なうため,上述した各種検査を診断書記載前に行った上で診断書を記載することが望ましいと考えます。
なお,独立行政法人自動車事故対策機構(NAS
VA:ナスバ)は,自動車運送事業者における運転手を対象に適性診断や特定診断などを行っており,こちらに相談するのも一法かもしれません。

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