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看護師によるインフルエンザ予防接種の法的可否

No.4754 (2015年06月06日発行) P.64

手嶋 豊 (神戸大学大学院法学研究科教授)

登録日: 2015-06-06

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

先日,テレビで看護師がインフルエンザワクチンを接種している場面がありました。実臨床で行った場合,これは違法ではないでしょうか。 (福岡県 I)

【A】

看護師によるインフルエンザワクチンの接種行為は違法かというご質問には,(1)看護師の注射行為が違法,(2)看護師が予防接種を実施するのが違法,(3)看護師が独立して注射の要否・可否を判断するのが違法,の3つの含意がありうると考えます。
結論は,(1)原則として違法ではない,(2)少なくとも現在は認められている,(3)違法である,となります。以下にその理由を説明します。
人の生命・身体に危険を及ぼす恐れがある,医行為をなしうるのは医師だけです(医師法第17条)。注射は人の身体に対して薬剤その他異物を注入する行為で,危険を及ぼす恐れがあります。
看護師がなしうるのは,保健師助産師看護師法(保助看法)第5条に定める「療養上の世話又は診療の補助」です。診療の補助の具体例は制限が明確ではなく,注射はすべて医師の手足の延長として実施可能なようにも思えますが,保助看法第37条により,医師の指示があっても看護師にできないこと(眼球注射など)(文献1)が存在すると解されます。
(1)については,注射にも比較的危険性の低いものから危険性の高いものまで段階があります。診療の補助に注射も含むかについて問題とされたのは静脈注射ですが,これは平成14(2002)年に「診療の補助行為の範疇として取り扱う」と行政解釈が変更されました(同年9月30日厚生労働省医政局長通知)。
インフルエンザHAワクチンの接種は皮下注射であり〔現在の予防接種実施規則(昭和33年9月17日厚生省令第27号)第21条。昭和33年制定当時の規則第24条では「皮下注射又は筋肉注射」としていた〕,静脈注射よりも危険性が低く,この点から,看護師による接種は違法と評価されません。
(2)については,予防接種法は昭和51(1976)年に大幅な改正が行われ,その際の同年9月14日衛発第726号厚生省公衆衛生局長通知に別添された予防接種実施要領第1・7,予防接種の実施に従事する者[1]で「接種を行う者は,医師に限ること」とし,予防接種を行いうるのは医師のみとしました。
この通知は平成6(1994)年8月25日健医発第962号保健医療局長通知により同年9月30日をもって廃止され,「医師に限る」という文言も削除されました。
現在の定期接種実施要領にはこのような限定はありません。したがって,予防接種は医師しか実施できないわけではないと解されます。ただし,実施要領は看護師による接種を推奨しているわけではなく,医師によることが原則であり,看護師による場合は医師の指示が必要であると言えるでしょう。
(3)については,予防接種の可否の判断など,医学的知見に基づく判断が必要な場面で,看護師が独自に判断の上,実施していたとすれば,それは診療の補助の範囲を超えているため,医師法違反となります。

【文献】

1)野田 寛, 編:医事法(上). 青林書院, 1984, p81.

【参考】

▼小沼 敦:レファレンス. 2007;57(9):195-212.
▼野田 寛, 編:医事法(上). 青林書院, 1984, p79以下.
▼高田利廣, 他:事例別医事法Q&A. 第5版. 日本医事新報社, 2011, p243.

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