株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

患者がカルテ情報の一部削除を希望した場合の対応

No.4739 (2015年02月21日発行) P.68

青木一男 (弁護士)

登録日: 2015-02-21

最終更新日: 2016-10-18

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【Q】

私が関連する高齢者マンションの入居者が定期健診を受けたが,「検査結果の一部が良くないのは自分の努力不足だったので病院の記録(電子カルテ)から削除してほしい,自分もデータ(報告書)はほしくないし,ほかの人にも見られたくない」とのことである。本人のデータであって,また削除の希望が強いので削除してよいものか。
また,データを削除した場合,「データがないのだから健診料を返してほしい」と言われる可能性もある。健診料の返金に応じる必要はないと考えるが,いかがか。 (東京都 M)

【A】

個人情報の保護に関する法律(以下,個人情報保護法)では,「……本人から,当該本人が識別される保有個人データの内容が事実でないという理由によって当該保有個人データの内容の訂正,追加又は削除……を求められた場合には,……利用目的の達成に必要な範囲内において,遅滞なく必要な調査を行い,その結果に基づき,当該保有個人データの内容の訂正等を行わなければならない」(個人情報保護法第26条第1項)そして,「……訂正等を行ったとき,又は訂正等を行わない旨の決定をしたときは,本人に対し,遅滞なく,その旨を通知しなければならない」(同法同条第2項)また,「……その措置をとらない旨を通知する場合又はその措置と異なる措置をとる旨を通知する場合は,本人に対し,その理由を説明するよう努めなければならない」(同法第28条)と定めている。
そこで,本件の「利用目的」がどのようなものかについては,「関連する高齢者マンションの入居者の定期健診」ということであるから,本人が入居している高齢者マンションが入居者の健康管理や介護の必要程度を判定する目的と考えられる。
この場合,本人の意向に関わりなく「利用目的」が存在するので,この目的に則して訂正などが必要かどうか判断をする。本例では,削除を求める理由として「自分の努力不足だったので」と述べているので,血糖値,体脂肪であるとか,認知テスト,運動テストなどの結果を問題にしているのかもしれない。そうであれば,検査値は,本人の検査時における運動不足などを含む身体の状態を反映しているのであり,そこに検査の意味があるため,「自分の努力不足」という理由や「データは欲しくない」「ほかの人にも見られたくない」という理由は正当な理由にはならないと考えられ,削除はできないと解釈される。また「自分の努力不足」というものが上記のようなことでなければどのようなことなのか,「検査結果の一部が良くない」というのはどのような原因によるものか聴聞して調査を行い,必要であれば再検査や補充検査を行い,データの正確性を高めるため訂正の必要があることも起こりうる。
また,定期健診が入居している施設に関わりなく,純粋に本人の意思で実施された場合であっても,本人が健康管理の目的で交わした病院との契約による本人の獲得結果であると同時に,実施した病院の債務(契約の責任)を履行した記録であり,病院の業務記録でもあることから,利用目的は本人のためだけではない。後日,本人に何らかの疾病や事故が起きた場合には既往データの資料となる。したがって,本人から削除の求めがあったからといっても,削除はできないと解釈される。
この削除しない理由については,前記を参考にして本人に説明して頂きたい。なお,データの訂正を行う場合にも,前のデータを削除することなく,訂正の内容として新しいデータを追加記載し,訂正の理由を付記する。また,本人からの申し出の内容およびどのように措置したかを,訂正する場合も,しない場合も,本人にいつどのように説明したかも含めてカルテに記載しておく。

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

関連物件情報

もっと見る

page top