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てんかん患者運転免許取得時の虚偽申告を知った場合は報告義務があるのか?

No.5026 (2020年08月22日発行) P.49

川合謙介  (自治医科大学脳神経外科教授)

登録日: 2020-08-19

最終更新日: 2020-08-18

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てんかん発作で外来通院中の患者の症状が安定しており,発作も2年以上みられなかったため,当院で自動車運転免許の取得が可能である診断書を作成し,患者は運転免許を取得しました。それから半年後,患者の親族の医師(てんかん診療経験のある)から,「患者はこの2年の間にてんかん発作を起こしており,発作がないというのは偽りである」との報告がありました。患者に確認したところ,「発作はあったがてんかんであったとは考えていない」と主張し,発作がてんかんであったかどうかは本人からは確認が取れませんでしたが,てんかんである可能性も考慮して患者に運転を控えるように指示をしました。
しかし,患者はこれに従わず車の運転を継続しているため,先の医師である親族から,「運転免許取得の診断書は患者の虚偽申告によるものであるから診断書に誤りがあったことを公安委員会に申告する義務があるのではないか」との照会がありました。この件について当方はどのように対応すべきでしょうか。(大阪府 K)


【回答】

 【義務規定ではなく,届け出を行わなかったことによって医師が罰せられることはない】

道路交通法は「医師は,その診察を受けた者が一定の病気等のいずれかに該当すると認めた場合において,その者が免許を受けた者等であることを知ったときは,当該診察の結果を公安委員会に届け出ることができることとする」としています。てんかんに関する届け出の判断基準については,日本てんかん学会のガイドライン1)を参照して下さい。また,届け出の手順については,日本医師会のガイドライン2)を参照して下さい。なお,これは義務規定ではありませんので,届け出を行わなかったことによって医師が罰せられることはありません(民事訴訟の対象にはなりえます)。

本件では,当該患者に,運転に支障をきたす発作(意識障害または運動障害を呈する発作)があるのかどうかがはっきりしていません。親族の医師は「てんかん発作を起こしており」と言っていますが,いつ誰がどのような発作を目撃したのか,またはどのような状況証拠があったのかを確認し,カルテに記載することをお勧めします。また,患者本人の言う「発作はあったがてんかん(発作)であったとは考えていない」についても,どのような発作があったのか,なぜてんかん発作だったとは考えていないのかを詳細に聞き取り,カルテに記載して下さい。

両者からの情報をもとに,運転に支障をきたす発作(てんかん発作以外も対象となりえます)があったと医学的に判断できれば,運転は中止するよう指導し,それでも運転を継続する場合は,上記ガイドラインに従って届け出を考慮します。医学的判断が困難な場合には,「このままでは運転の許可はできない,警察への届け出を考慮せざるをえない」旨を本人に説明して,地域のてんかんセンターなどてんかん専門医の受診を促して下さい。患者の発作が運転に支障をきたす発作かどうかは,長期脳波ビデオ同時記録など専門的検査を行わないと判断できないこともあります。

質問者の先生は,標準的な診療行為として患者の発言に基づいて診断書を作成していますので,さかのぼって診断書の誤りを申告する,または訂正する等の対応は不要です。むしろ,上記のように,運転に支障をきたす発作の有無を早急に確認し,発作があると医学的に判断される場合にはガイドラインに従って対応を進めて下さい。なお,日本医師会の届け出手順ガイドラインは「(4)患者への指導が困難な場合は,その家族等を通じての指導を考慮する」としていますので,親族医師による指導や届け出も考慮して下さい。

【文献】

1) 日本てんかん学会:てんかんに関する医師の届け出ガイドライン.
[https://square.umin.ac.jp/jes/images/jes-image/140910JES_GL.pdf]

2) 日本医師会:道路交通法に基づく一定の症状を呈する病気等にある者を診断した医師から公安委員会への任意の届出ガイドライン.
[http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/2014 0910_1.pdf]

【回答者】

川合謙介 自治医科大学脳神経外科教授

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