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悪性腫瘍に対する高濃度ビタミンC療法の効能

No.4726 (2014年11月22日発行) P.63

川田浩志 (東海大学医学部内科学系血液・腫瘍内科准教授)

登録日: 2014-11-22

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

悪性リンパ腫に超高濃度ビタミンC静注法が奏効する場合がある,と聞いたことがあるが,もしこれが事実であれば,その根拠と機序を。 (福岡県 T)

【A】

悪性腫瘍に対するビタミンC療法は,約40年前にノーベル賞を2度受賞したポーリングとキャメロンらが最初に試みた(文献1)。彼らは,末期がん患者に対してビタミンCを経口ならびに経静脈的に投与し,延命効果が認められたと発表したが,その後の経口投与による追試で効果が否定されたため,以後しばらくの間,顧みられることはなかった(文献2)。
しかし近年になり,ビタミンCを経口投与した場合は体内の調節機構によって血中濃度の上昇が制限されるが,経静脈的に投与すると経口投与の最大70倍程度の血中濃度の上昇が得られ,その結果,過酸化水素を発生させることがわかった(文献3) 。そして,この過酸化水素は,正常細胞に比べて過酸化水素除去能が低下している,ある種の腫瘍細胞を選択的に死滅させることが報告されて,ビタミンCの抗腫瘍効果が再び脚光を浴びることとなった(文献4)。
ビタミンCというと,アンチオキシダントとしての抗酸化作用ばかりが注目されがちであるが,実はプロオキシダントとしても作用して活性酸素を発生させうる。高濃度ビタミンC療法は,このビタミンCのプロオキシダントとしての性質を利用したものである。
筆者らやほかの研究グループの検討で,リンパ腫細胞や白血病細胞には過酸化水素除去能の低下しているものが多く,その場合,ビタミンCの経静脈的投与で抗腫瘍効果が得られることを,in vitroならびに実験動物を用いたin vivoの実験で確認している。臨床的に,経静脈的ビタミンC療法によって抗腫瘍効果が認められたという報告も散見される。
しかし,臨床試験はまだ十分に行われておらず,リンパ腫などの悪性腫瘍に明らかに効果がある,と言えるレベルには到達していない。
筆者らの施設では,再発悪性リンパ腫症例を対象に高濃度ビタミンC療法の第1相臨床試験を実施して,その安全性と血中濃度の上昇を確認しており,第2相試験の実施も考慮している(文献5)。しかし過酸化水素は,生体内で発生した場合には,赤血球や周りの正常細胞によって除去されてしまうため,in vitroでみられるようなビタミンCの抗腫瘍効果が認められなくなることもしばしばある。そのため,現在,高濃度ビタミンC療法のほかのメカニズムや,他剤との併用療法の可能性などについて慎重に基礎的な検討を加えているところである(文献6)。

【文献】


1) Cameron E, et al:Proc Natl Acad Sci USA. 1978; 75(9):4538-42.
2) Moertel CG, et al:N Engl J Med. 1985;312(3): 137-41.
3) Padayatty SJ, et al:Ann Intern Med. 2004; 140(7):533-7.
4) Chen Q, et al:Proc Natl Acad Sci USA. 2005;102 (38):13604-9.
5) Kawada H, et al:Tokai J Exp Clin Med. 2014, in press.
6) Kawada H, et al:PLoS One. 2013;8(4):e62717.

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