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片側声帯麻痺症例の肺手術時に おける声帯への低侵襲な麻酔法

No.4721 (2014年10月18日発行) P.67

中山禎人 (札幌南三条病院麻酔科部長/札幌医科大学医学部麻酔科学講座臨床准教授)

登録日: 2014-10-18

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

75歳,女性。若い頃より片側声帯麻痺があり,時に水分などを誤嚥することがある。
4年前に右下肺野に約1cmのすりガラス陰影があり手術が適応になる可能性がある。その際,挿管により両側声帯麻痺になることが心配である。声帯のダメージを避けることができる麻酔法はあるか。 (福島県 K)

【A】

原則として呼吸器外科手術は気管挿管下全身麻酔でのアプローチが基本であるが,それがどうしても困難と考えられる症例において,近年は意識下胸腔鏡手術(awake video assisted thoracoscopic surgery:awake-VATS)が試みられてきている(文献1)(文献2)。
本術式は,適応の厳しい制限など,施行にあたり様々な制約があるものの,上手に行えば気管挿管を伴わない術中管理が可能である。本例に対して適応を有する可能性があるため,文献にて詳細を参照され,実際の施行を検討されたい。また,本例は約1cmのすりガラス陰影であり,術式としてはVATS肺部分切除術が選択される公算が高いと思われる。
本術式において,微小な病変は手術時に触診による部位の同定が困難であるため,経気管支鏡的バリウムマーキング法(文献3)などの工夫を加えることが,最小限の手術時間でのスムーズな術式の遂行に必要と思われる。
もっとも,筆者は自院で累計4000例以上の呼吸器外科麻酔を経験しているが,片側声帯麻痺の症例に対してダブルルーメンチューブを用いた気管挿管下全身麻酔を施行した後に両側声帯麻痺となった経験はいまだなく,本例に対する気管挿管下全身麻酔は必ずしも禁忌とはならないと考える。
本例に気管挿管下全身麻酔を選択する場合の注意点として,声帯への障害を惹起する最大の要因は,挿管時にチューブ先端で,またチューブ留置中にチューブ本体で,声帯を機械的に損傷してしまうことであると考えられる。このため,これらを未然に防ぐためには,用いるダブルルーメンチューブは32~35Fの比較的細めのサイズ,また本体が柔らかい製品(富士システムズ社製など)を選択して,十分な経験のある麻酔科医による声帯損傷のない気管挿管を心がけるなど,声帯保護に留意した気道管理を行うべきと考える。

【文献】


1) Vanni G, et al:Ann Thorac Surg. 2010;90(3): 973-8.
2) 野田雅史:LiSA. 2014;21(7):656-60.
3) Asano F, et al:Chest. 2004;126(5):1687-93.

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