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「7対1病床」の削減影響

No.4715 (2014年09月06日発行) P.68

森下正之 (特定非営利活動法人標準医療情報センター副理事長)

登録日: 2014-09-06

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

7対1病床の削減の影響(開業医への)はあるか。 (神奈川県 I)

【A】

このような質問にお答えする場合には,まず時間軸により精度がばらつくであろうと申し上げたい。
理由は,(1)5~10年程度のスパンで病床過剰の日本の医業状況を考えると,英米などOECD先進諸国と非常に似通った形態になることが必至ということである。すなわち,高齢者人口の持続的増加,長期医療インフレ傾向の継続,患者中心の医療重視などに由来する社会保障関連支出の増大による経済への負担増加。結果,プライマリケアが二次医療へのゲート機能を果たす重要性を再確認すること(救命救急と出産のみ例外)となる。
(2)英国をモデルとした米ACOs=プライマリケアから患者の診療記録をデジタル化革命により安価に3年サイクルで追跡できる。不必要な検査・治療・投薬などは1年ごとにチェックされ,患者の治療結果が良ければ病院にボーナスが支払われ,悪ければペナルティ(罰金)が課される。医療の質とコスト抑制の二兎を追求するシームレスの統合医療形態*1であるが,日本への導入の動きも予想される。
(3)2014年急性期の7対1病床の厳格化は,英米では数字は別にして当たり前で,今回は開業医が担うプライマリケアの重要性がわが国でも再認識されはじめたにすぎない。具体的対応策として,包括医療やかかりつけ医の役割分担などの政策も含まれる。
(4)デジタル化は目覚ましく,開業医に対しても2015年から始まる健康保険証,年金手帳などに導入される共通番号制は米国のメディケア患者の請求内容を追跡調査する仕組みに酷似している。
短期的には利害関係者の利害衝突の調整で政治が介入し,ジグザグ進行となるので具体的な影響の予想は困難である。開業医の方々には社会保障費用抑制圧力とデジタル化革命の浸透に対し,日々の業務の中で自己研鑽努力とプライマリケアの重要性再確認が必須であると付言したい。
たとえば,(35歳以上の人たちは概してデジタル化教育が不十分なようだが),エクセルの熟達で自院の患者データ(少なくとも2000~3000人程度)の分析,病診連携の勉強会の結成・参加,英米で実施されている開業医の免許更新の勉強,英健康保険制度が積極推進しているトヨタ生産システムの発展形態の「リーンの考え方」*2のプライマリケアへの導入可能性の勉強会の結成・参加による開業医有志のグループ化推進などが考えられる。いわゆるビッグデータの活用が身近になりうる。
現在の国民皆保険制度が破綻する可能性も排除できないわが国にとって,継続的に英国や米ACOsの展開を注視していくことは,わが国の医療だけでなく社会保障政策の未来を占う上でも非常に重要なことになる。
*1ACOsとは,Accountable Care Organizations(統合医療組織体)の略。初期治療を担う医師と急性期病院とで結成する連携医療ネットワーク組織で,既にマサチューセッツ州の公的医療保険で有効性が実証済みの画期的な取り組み方式であり,米公的保険(メディケア)で採用が始まっている。詳しくは「最新医療経営 Phase3」(日本医療企画)掲載の拙稿(2011年8月号62ページ,2012年3月号30ページほか)を参照されたい
*2Lean Thinking=“Get it right first time”。雑駁に述べれば最初から正しく「(患者)に対すること」。それが後ろ向きの是正コスト発生を防ぎ,患者満足度を改善し,かつ医療提供側のコストを節減できるという考え方である

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