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乳癌検診における自己検診・触診検診の有用性

No.4713 (2014年08月23日発行) P.60

名郷直樹 (武蔵国分寺公園クリニック院長)

登録日: 2014-08-23

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

4695号の「その場の1分、その日の5分」についてご確認させていただきたい。「CASE 37 乳癌検診は受けるべき?」では,「乳癌は早期発見にこだわらなくてもよいかもしれない」との回答がある。その一方で,患者への対応として「自分で触診したり,外科の医師にマンモグラフィーでなく触診のみを定期的にしてもらうというのがよいのかもしれません」とも記されていた。
「早期発見にこだわらない」と「自己検診あるいは視触診単独検診をするほうがよい」は矛盾しているように思われるが,自己検診や視触診単独検診をするほうがよいというエビデンスは本当に存在するのか。執筆者の名郷直樹先生に。
(熊本県 W)

【A】

ご指摘の通り,視触診によるスクリーニングの有効性は示されていない(文献1) 。筆者の知る範囲のエビデンスでも,視触診にマンモグラフィーを追加しても乳癌死亡率は変わりないというランダム化比較試験の結果が13年の追跡時点(文献2) と25年の追跡時点(文献3) で報告されているのみである。
エビデンスに基づく限り,乳癌死亡の減少が示されたマンモグラフィーは推奨できるが,乳癌死亡の減少が示されていない視触診の検診は勧められないというのが多くのガイドラインの内容だと思う。しかし,マンモグラフィーの過剰診断が問題にされる中,マンモグラフィーに比べて特異度がほぼ同等で,感度が低い視触診は,過剰診断を減らす可能性がある(文献4)。また,25年フォローのランダム化比較試験でマンモグラフィーと差がないというデータもあることから(文献3),何もしないではいられない不安の強い患者に対する対応策のひとつとして,個別の患者には使う場面があると思う。
エビデンスに従うというのがEBMだと誤解されがちであるが,エビデンスを十分吟味した上で,個別の状況ではエビデンスに相反する選択肢もありうるというのが現実の実践ではないであろうか。

【文献】


1) Nelson HD, et al:Ann Intern Med. 2009;151(10):727-37.
2) Miller AB, et al:J Natl Cancer Inst. 2000;92(18):1490-9.
3) Miller AB, et al:BMJ. 2014;348:g366.
4) Fenton JJ, et al:J Gen Intern Med. 2007;22(3):332-7.

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