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胃内視鏡検査前の胃蠕動抑制薬の使いわけ

No.4711 (2014年08月09日発行) P.61

比企直樹 (がん研有明病院消化器センター外科胃担当部長)

登録日: 2014-08-09

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

人間ドックの胃内視鏡検査でのブチルスコポラミン臭化物は,目のかすみなどの副作用を伴うため,このような症状のある患者には避けたい。この前処置をせずに対応する方法にはどのようなものがあるか。
患者の疾患ごとに胃蠕動抑制薬の使いわけがあれば。 (鳥取県 E)

【A】

筆者は「通常内視鏡」では事前に鎮痙薬の注射は行わず,診断の妨げになるような蠕動運動を認めた,あるいはその可能性を感じた際にl-メントール製剤を使用し,「精査内視鏡」時には全例でl-メントール製剤を使用している。

(1)胃の内視鏡検査
筆者は「消化器内視鏡ハンドブック」(文献1)に記載されている通り,胃の内視鏡検査では「通常内視鏡(ルーティーン内視鏡)」と「精査内視鏡」を使いわけている。
「通常内視鏡」は白色光の光源を用いて,一般普及型スコープで施行し,検査領域を満遍なく観察し,異常所見を拾い上げて一定レベルの診断を下すことが目的である。
「精査内視鏡」は「通常内視鏡」によって拾い上げた異常所見・病変に対して,より高度な内視鏡診断を下すことが目的である。「精査内視鏡」は拡大能のあるスコープでNBI法などの画像強調観察(image enhanced endoscopy)や色素散布法を用いて施行する。

(2)胃蠕動抑制薬
胃病変の見落としを防いだり検査効率を高めるために,観察の妨げになる胃の過剰な蠕動運動を抑制する必要がある。
従来,蠕動運動を抑制するためには内視鏡挿入前に鎮痙薬(ブチルスコポラミン臭化物)やグルカゴンが筋肉内または静脈内に投与されてきた。ブチルスコポラミン臭化物は副交感神経遮断作用に基づく鎮痙作用,胃液分泌抑制作用などを示し,グルカゴンは消化管に対して,平滑筋への直接的な弛緩作用による消化管運動の抑制および胃液,膵液の分泌抑制を示す。しかし,これらの薬剤は検査終了後も観察を十分に行うこと,車の運転などの危険を伴う機械の操作に従事させないことなどの注意が必要である。また,合併症の問診もしっかり行う必要がある。
2011年より販売されているl-メントール製剤(ミンクリア)は,内視鏡検査中に内視鏡鉗子口より胃幽門前庭部に直接散布する。散布後,約20~30秒で蠕動運動が抑制され,内視鏡検査中は抑制された状態が持続する(文献2)。作用持続時間として,内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection:ESD)施行症例を対象とした臨床試験において,散布後30分においても蠕動運動が抑制されていた症例の割合は90%であったことが報告されている(文献3)。局所作用であり,検査後の回復時間を必要とせず,問題となる副作用も報告されていないことから安全で有用な製剤である。

(3)胃蠕動抑制薬の使いわけ
「通常内視鏡」では唾液や胃液が多いことが原因で観察に困る症例はほとんどなく,鎮痙薬を使用する必要はほとんどない。ただし,蠕動運動の発生を抑制するため,内視鏡挿入後にl-メントール製剤を散布することは有用である。「精査内視鏡」では病変の拡大観察を行うため,l-メントール製剤を散布し,観察の妨げとなる蠕動運動を抑制する。またl-メントール製剤散布により病変が明瞭になるとの報告もある(文献4)。
l-メントール製剤の効果が不十分である場合には,ブチルスコポラミン臭化物やグルカゴンを投与する。ただし,ショックやアナフィラキシー様症状,尿閉や視覚障害,二次性の低血糖などの副作用を念頭に置きながら患者の状態を十分に把握する。
高齢化社会に伴い,心疾患,前立腺肥大,糖尿病などの様々な合併症を有する高齢者に上部消化管内視鏡検査を施行する機会が増加しており,65歳以上の患者にはグルカゴンやl-メントール製剤,65歳未満の患者には鎮痙薬の投与といった年齢による使いわけ,患者の合併症(心疾患,前立腺肥大,糖尿病など)によりl-メントール製剤を使用するといった使いわけをすることが可能である。
人間ドック,スクリーニング検査などでは,検査後すぐに職場に戻り機械の操作などに従事したり,車の運転を希望する患者が多いことから,検査後の回復時間が不要であるl-メントール製剤を使用する。
ESDなどの内視鏡治療で時間を要する場合,必要に応じてブチルスコポラミン臭化物を使用する。上部内視鏡治療時の蠕動抑制の用途で薬事承認されており,保険適用とされているのは,l-メントール製剤とグルカゴン,ブチルスコポラミン臭化物である。l-メントール製剤のみでも施行時間中の蠕動運動は抑制でき,効果が減弱してきた場合は追加投与することができる。内視鏡治療ではセデーションにより静脈ラインが確保されているため,ブチルスコポラミン臭化物やグルカゴンの投与も容易に行うことができ,l-メントール製剤の効果が不十分であると感じた際に使用できる。

(4)l-メントール製剤の使い方
l-メントールは,胃粘膜上にある電位依存性L型カルシウムチャンネルに結合することで,膜電位の発生を消失させ,平滑筋を弛緩させると推察される(文献5,6),胃粘膜への局所作用である。苦痛のない検査を実現する上で,l-メントール製剤は非常に有用であり,検査後の回復期間や安全性に配慮した観察を必要としないことから,患者のみならず医療従事者にとっても負担軽減となる。
一般的に上部消化管内視鏡検査の前処置として,検査前に胃内の消泡と胃粘膜付着粘液の除去のためにジメチコンやプロナーゼを用いる。内視鏡挿入後,l-メントール製剤散布前に再度胃内の粘液を十分に洗浄し吸引することで,l-メントール製剤散布による泡立ちが抑えられる。l-メントール製剤は内視鏡鉗子口を介して胃幽門前庭部に薬剤が行き渡るように直接散布する。鉗子口内の残液を少量の空気またはジメチコンの稀釈水でゆっくり押し出す。速やかに効果発現が認められるため,散布後泡立ちが気になる場合は,送水またはジメチコンの稀釈水で洗浄することも可能である。

【文献】


1) 日本消化器内視鏡学会, 監:消化器内視鏡ハンドブック.日本メディカルセンター, 2012.
2) Hiki N, et al:Gastrointest Endosc. 2011;73(5): 932-41.
3) Fujishiro M, et al:J Gastroenterol. 2014;49(3): 446-54.
4) Hikichi T, et al:Fukushima J Med Sci. 2011:57 (2): 60-5.
5) Hawthorn M, et al:Aliment Pharmacol Ther. 1988;2(2): 101-18.
6) Hills JM, et al:Gastroenterology. 1991;101 (1):55-65.

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