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機能性ディスペプシア,胃アトニー,胃不全麻痺の病態および治療薬の効果の違い

No.4706 (2014年07月05日発行) P.65

菅野健太郎 (自治医科大学名誉教授)

登録日: 2014-07-05

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

機能性ディスペプシア(functional dyspepsia:FD)の運動不全型,胃アトニー,胃不全麻痺(gastroparesis:GP)はどのように異なるのか。
また,それぞれの病態でアコファイドR,ナウゼリンR,プリンペランRなどの効き方に違いがあるか。 (東京都 F)

【A】

GPは,幽門狭窄などの機械的閉塞機転がないにもかかわらず,胃からの食物排出が遅延する病態を指す。
わが国では,胃切除後の胃で多くみられるほか,糖尿病の合併症としても起きる。これらのほかの病因による胃の排出遅延を二次性GPと言い,原因の明らかでないものを特発性GP(idiopathic gastroparesis:IGP)あるいは一次性GPと言う。
最近の米国からの報告では,一次性のGPと糖尿病性のGP(diabetic gastroparesis:DGP)の両者とも,胃の神経線維やカハール介在細胞(interstitial cells of Cajal:ICC)の減少,炎症細胞浸潤などの器質的変化が共通して認められることが明らかにされている(文献1)。
胃の排出遅延を診断するには,放射性同位元素を含む試験食を摂取させ,その後の胃排出をシンチグラフィーで測定する方法が標準的である。しかし,わが国ではこの方法は一般的でなく,アセトアミノフェン法や呼気ガス法,超音波検査などが用いられているものの,これらはまだ診断法としては確立されていない。
FDの運動不全型〔現在の亜分類では食後愁訴症候群(post-prandial distress syndrome:PDS)にあたると考えられる〕は,原因として特定できる器質的疾患がみられないにもかかわらず,慢性的な食後の早期飽満感などを主たる症状とする症候群である。その症状は,GPと重複する場合も多い。前述したように原因が特定できないIGPでは,器質的異常があることが明らかにされているとはいえ,日常臨床で胃排出検査や胃の全層生検を診断目的で行うことはまずないため,両者の鑑別は困難である。ただし,FDとIGPの疾患頻度を比べると前者のほうがはるかに高いので,FDと診断された患者の中にIGP患者が含まれている可能性があるとしても,ごく一部にすぎないと思われる。
一方,FDのうちPDS患者で胃排出が低下しているのかどうかについては,必ずしも一定のデータが得られていない。
いわゆる胃アトニーは,胃の平滑筋緊張が低下した状態とされ,胃下垂と同義的に用いられている場合が多いが,実際に胃排出機能の低下や,ディスペプシア症状の発現に関係しているかどうか,すなわち病的意義については懐疑的であり,現在では疾患単位としては認知されない傾向がある。
次に,いわゆる胃運動機能改善薬として日常臨床に用いられているアコファイド,ナウゼリン,プリンペランのIGPやFDに対する有効性に違いがあるかどうかについて述べる。米国では,IGPに対しては,ナウゼリン,プリンペランは副作用のため制限的な使用にとどめられており,その効果も明確とは言えない。アコファイドは,欧米では臨床試験中であり,未だ使用されていない。
一方,FDについては,わが国で行われた二重盲検試験でPDSに対するアコファイドの有効性が立証されており(文献2),保険適用されている。そのほかにも多くの胃運動機能改善薬があるが,厳密な臨床試験を経てFDに対する効果が証明されたものはない。

【文献】


1) Grover M, et al:Gastroenterol. 2011;140(5):1575 -85.
2) Matsueda K, et al:Gut. 2012;61(6):821-8.

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