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感染症罹患時の認知症患者等の行動制限

No.4704 (2014年06月21日発行) P.68

竹中郁夫 (弁護士)

登録日: 2014-06-21

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

入院患者や入所者に感染症(インフルエンザやノロウイルスなど)が発症した場合,他の入院患者・入所者に感染を広げないように対策を取らねばならないが,発症者が認知症や精神疾患などで安静を守れず徘徊などで他者との接触が避けられない場合は,必ずしも本人の同意が得られなくとも行動制限(個室施錠など)を行うことは認められるか。認められる場合は手続きをどのようにすればよいか。 (新潟県 H)

【A】

「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下,「感染症法」)には,入院の勧告や入院の措置について定められているが,ご質問が既に入院している患者の行動制限についてであることから根拠とならない(高齢者施設への入所者については,病院への入院という選択肢はもちろんありうることである)。
「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」(以下,「精神保健法」)は,第36条1項で「精神科病院の管理者は,入院中の者につき,その医療又は保護に欠くことのできない限度において,その行動について必要な制限を行うことができる」と定めており,施錠なども行われるが,これはあくまでも精神保健法が精神科病院の治療において必要と認められる行動制限について定めているものと考えられる上に(座談会 精神科領域における感染対策,https://ds-pharma.jp/gakujutsu/contents/infection/discussion/02/参照),ご質問の内容からすると精神科病院でない病院や施設における対処について聞かれていると思われる。
そうなると法律に基づいての系統的な隔離や抑制は許されず,仮に認められても個別的に必要不可欠の行動制限が許されるにとどまり,なかなか行動制限手続きの定型性は見出しにくいということになろう。
2010(平成22)年1月26日最高裁第三小法廷判決は,「身体拘束は原則的に許されず,患者の受傷を防止するなど,やむをえない場合にのみ許される」としつつ,「拘束しなければ女性が骨折するなどの危険性が高かったことから違法ではない」と判示し,当直の看護師らが抑制具であるミトンを用いて入院中の患者の両上肢をベッドに拘束した行為を違法とも言えないとし,前審の名古屋高裁判決を破棄して請求を棄却した。
このような現況から,感染症法の立法趣旨に鑑み,徘徊等による本人の疲弊や病原体拡散を防ぐためやむをえない行動制限を医療・介護側で熟考し,人権と公衆衛生の均衡を図るという抽象的な結論が現在の答えとならざるをえない。
何はともあれ,定型的なモデルはないとはいえども,自院のベストエフォートでそれなりのプロトコールをつくり,患者や家族に,このような制約と安全配慮の必要性をしっかりと説明し,できる限りの同意を得る努力を行うことが望まれる。

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