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教育・保育現場でのエピペンへの対応

No.4700 (2014年05月24日発行) P.68

竹中郁夫 (弁護士)

登録日: 2014-05-24

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

2012(平成24)年の東京・調布市の事故以来,教育・保育現場でアナフィラキシー対応としてエピペン使用が推進されており,文部科学省も「医師法第17条の解釈について」という厚生労働省の回答文に触れた通知「今後の学校給食における食物アレルギー対応について」を出している。エピペンの使用に関しては2008(平成20)年「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」(日本学校保健会)に示されている「自ら注射できない状況にある児童生徒に代わって注射する」と内容が同一で,2011(平成23)年の厚労省「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン」もほぼ同様の見解を採っているが,以下を。
(1)年齢的なことも含めて「自ら注射できない状況」とはどのような状況か。法的にどのような場合が許容されると考えられるか。
(2)本人が打とうとしない,さらに注射を拒否する場合に救命を目的として職員が注射をすることは可能か。結果としてアナフィラキシーでなかった場合も含め,刑法第37条との関連も併せて。(東京都 N)

【A】

(1)「自ら注射できない状況」とは
まず,静的に心身発達の段階論的に考えれば,保育士にケアされている低年齢の子どもたちは身体的能力においても,判断能力においても,自ら注射を打つことができるとは思われない。 その後,長じて小学校低学年から高学年,中高生とだんだんと身体的にも,判断能力においても,自己注射能力は伸長していくものと考えられるが,それは個々の児童生徒の発達程度によって様々であると言えよう。また,心身発達といったくくりだけでなく,児童生徒各人が親や教師,医師などのサポートを受けるべき人々とどれだけしっかりとしたコミュニケーションを持ち,自己管理能力をどれだけ育んできているかという点も重要である。
次に,動的というか,医学・医療的にどの程度自己で行う能力を持っているかによっても違ってくる。いまだ症状の出現は乏しく,しっかりとしている状態から,アナフィラキシー症状が激しく,意識がなかったり失われつつある状態の者には,自己注射はとうてい困難で,幅は広いと言わなければならないだろう。
このように,静的にも動的にも,それぞれピンからキリまでの状況がありうるので,実際には総合的に判断して,安全配慮を行う者としての最終的な判断をするほかない。
(2)本人が注射を拒否した場合
これも(1)と同じく,本人の判断能力や自己決定能力を十分に考察しつつ,拒否していてもそれは判断能力が未発達で単に「痛いからいやだ」と言っている場合もあれば,症状の進行で見当識もはっきりせず,うわごとのように拒む場合もある。逆に十分に成長し判断能力もあり,危険性を自覚したときまでもう少し様子を見たいという自己決定をしている場合まで,状況は千差万別であろう。
前者の場合は,パターナリスティックに周囲の者が打つ必要があるかもしれないが,後者ならばともに様子を見ることが必要かもしれない。 
刑法第37条の「緊急避難」の規定で違法性阻却あるいは責任が阻却される場合は当然ありうるが,他方,事実誤認などで誤想避難,誤想過剰避難と言われる結果となるリスクがあり,故意犯は免れたにしても業務上過失致傷罪や重過失致死傷罪に問われるリスクも残る。また,そのほかに不作為によって問責される可能性もあり,特別に無難な方法はない。
なお,現場では,エピペン注射の作為・不作為の判断だけでなく,救急要請,救急蘇生などに腐心することも重要である。

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