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一般外来でHIV感染症を疑うきっかけ【HIV感染症と関連する情報を収集し,適応があればHIVスクリーニング検査を勧める】

No.4801 (2016年04月30日発行) P.60

塚田訓久 (国立国際医療研究センターエイズ治療・研究 開発センター医療情報室室長)

登録日: 2016-04-23

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

わが国の感染者数は諸外国ほど多くないものの,早期発見・早期介入が重要で,社会的な点も含めて,HIV感染症はインパクトの大きな疾患のひとつです。HIV/エイズ診療拠点病院にHIV感染患者が(多くは紹介で)受診する前段階として,開業医や市中病院の一般外来を未診断で受診したとき,どのような病歴・症状・所見がHIV感染症を疑うきっかけとなり,その後の精査につなげることができるでしょうか。国立国際医療研究センター・塚田訓久先生にお聞きします。
【質問者】
中河秀憲:国立成育医療研究センター感染防御対策室

【A】

正直に告白しますと,私自身はながらく診断後に紹介を受ける立場にあり,自らHIV感染症を疑って検査し診断に至った経験はそれほど多くありません。それでも,重症化してから診断された人の病歴をさかのぼって,「2年前の梅毒」「1年前の帯状疱疹」など,「あのタイミングで診断できていれば」と残念に感じるケースはしばしば目にします。また,日和見疾患を発症して医療機関を受診した場合でも,なかなかHIV感染症の診断に至らず適切な治療開始が遅れた結果,入院期間が延長したり致命的な経過をたどったりする事例があります。
HIV感染症には特異的な症状・所見はなく,疑うためにはHIV感染症と関連する情報を収集する必要があります。具体的には,(1)HIV感染リスクの高い行為(性交渉歴,静注薬物使用歴),(2)HIV感染リスクを示唆する既往歴(梅毒,淋病,赤痢アメーバ症,ウイルス性肝炎などの性感染症),(3)細胞性免疫不全を示唆する現症・病歴(帯状疱疹,口腔カンジダ症,結核,ニューモシスチス肺炎を示唆する間質性肺炎像,悪性リンパ腫など)が重要です。
性交渉歴,特にHIV感染リスクと強く関連する男性同性間性交渉歴の問診にはためらいを感じる先生もいらっしゃるかもしれませんが,これは「稀な」「普通ではない」行為ではありません。必要と思われる際には,偏見を持たず「普通に」問診して頂ければと思います(「性交渉の相手は男性ですか,女性ですか」など)。
これに加えて,経過に何らかの「違和感」を感じた際(妙に長引くインフルエンザ様症状,原因のはっきりしない体調不良,何度も繰り返す感染症,治りの悪い皮膚症状など)にはHIV感染症の可能性を考える,というのも良いアイデアだと思います。個人的なお勧めは,「すべての」受診者において「HIV検査は必要ないだろうか」と一瞬立ち止まって考えることです。機械的なルーチン検査はおそらく査定されますが(ちなみに性感染症時のHIV検査には健康保険を利用できます),ルーチンで「考える」ことにはお金も時間もかかりません。目の前にバラバラに存在していた事象が,HIV感染症の可能性を考えたことで初めてひとつにつながることもあります。
「適応あり」と考えたら,HIVスクリーニング検査を勧めるわけですが,実際には検査に同意頂けない場合もあるかもしれません。その場合でも受診者にとっては,検査を勧められたことがHIV感染リスクを自身の問題として認識するきっかけとなり,いずれ保健所などで自発的な検査を受けてくれる可能性がありますので,決して無駄にはなりません。

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