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食物アレルギーの検査・診断の進め方と生活指導・治療法 【食物アレルギーの治療や管理の原則は,正しい診断に基づいた必要最小限の原因食物の除去】

No.4800 (2016年04月23日発行) P.56

千貫祐子 (島根大学医学部皮膚科講師)

登録日: 2016-04-23

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

食物アレルギー,特に小麦アレルギーを疑ったときの検査・診断手順について。また,アレルギーがわかった場合,患者への具体的な生活指導,治療法も併せて,島根大学・千貫祐子先生のご回答をお願いします。
【質問者】
山本明美:旭川医科大学皮膚科教授

【A】

食物アレルギーを疑ったときに,まず初めに行う検査として血清中抗原特異的IgE検査が挙げられます。わが国ではイムノキャップとアラスタット3g Allergyが主に用いられています。ただし,抗原特異的IgE検査が陽性であるからといって,必ずしも食物アレルギーがあるわけではありません。
乳幼児の小麦アレルギーでは,厚生労働科学研究班による「食物アレルギーの診療の手引き2014」に掲載されているプロバビリティカーブが参考となります。これは,イムノキャップのIgE抗体価による食物経口負荷試験のプロバビリティ(症状誘発の可能性)をグラフにしたものです。ただし,あくまでも確率論であることに注意が必要です。
学童期以降の小麦アレルギーの多くは,食物依存性運動誘発アナフィラキシー(food-dependent exercise-induced anaphylaxis:FDEIA)という病型で発症します。この病型は,原因食物を摂取しただけでは症状はみられず,原因食物の摂取に運動や非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)内服などの二次的な要因が加わったときのみ,蕁麻疹やアナフィラキシーを生じます。小麦によるFDEIAでは,小麦アレルゲンコンポーネント(アレルゲンを構成する個々の蛋白質成分)のうち,ω-5グリアジンが主要なアレルゲンであることがわかっています。このため,粗抗原を用いた小麦やグルテンの特異的IgE検査が陰性の場合でも,ω-5グリアジン特異的IgEが単独で陽性となることも多いため,注意が必要です。
続いて行う検査法としては皮膚テスト(プリックテスト)が挙げられます。26~27ゲージの注射針を用い,鳥居薬品から販売されているアレルゲンスクラッチエキスを使用すると便利です。小麦によるFDEIAではω-5グリアジンをはじめとする不溶性蛋白質が原因となることが多いため,水溶性蛋白質を使用している小麦アレルゲンエキスでは偽陰性を示すことがあり,不溶性蛋白質を含有しているパンアレルゲンエキスのほうが陽性を示しやすいため,注意を要します。確定診断には負荷試験を行うことも考慮しますが,アナフィラキシーショックを誘発する危険性がつきまとうため,その適応については十分検討し,緊急事態に対応可能な医療機関にて行うことが望ましいと思われます。
食物アレルギーの治療や管理の原則は,正しい診断に基づいた必要最小限の原因食物の除去です。乳児・幼児早期の即時型食物アレルギーの原因である鶏卵,乳製品,小麦は,その後加齢とともに耐性を獲得することが多いのですが,学童期以降に発症する食物アレルギーの耐性獲得の可能性は乳児期発症に比べて低いのが現状です。FD
EIAの場合は,原因食物を摂取した際に運動やNS
AIDs内服を避けるように指導することでも,ある程度症状の誘発を防ぐことができます。誤食時の蕁麻疹や瘙痒に備えて抗ヒスタミン薬を処方し,アナフィラキシーの既往のある患者にはアドレナリン自己注射薬(エピペン)も処方します。なお,近年,いくつかの施設において経口免疫療法が試みられていますが,研究段階の治療法であり,十分なエビデンスがないのが現状です。

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