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前立腺全摘除術後における尿禁制の保持

No.4781 (2015年12月12日発行) P.61

小島祥敬 (福島県立医科大学医学部泌尿器科学講座 教授)

赤井畑秀則 (福島県立医科大学医学部泌尿器科学講座)

登録日: 2015-12-12

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

前立腺全摘除術は,術式こそロボット支援,腹腔鏡,開腹と様々ですが,前立腺癌に対する局所療法におけるゴールドスタンダードであると思います。もう一方のスタンダードである放射線治療と比較した際に,患者にとって重要な問題となるのは術式を問わず,術後尿禁制であると思います。術後,早期に尿禁制を回復するため,これまで様々な術式が開発されてきました。私たちは腹腔鏡下手術を行っており,いくつかの尿禁制改善のための術式を取り入れていますが,今でも術後尿失禁が遷延する症例を稀に経験します。術後の尿禁制を保持するための術式の工夫や術後ケアなどについて,福島県立医科大学・小島祥敬先生にご教示頂きたいと思います。
【質問者】
木村高弘:東京慈恵会医科大学泌尿器科講師

【A】

前立腺癌に対する根治的前立腺全摘除術後に発症する尿失禁は,腹腔鏡下手術やロボット支援手術が主流になりつつある今日でも,完全に解決することができない難しい合併症です。しかし,患者さんのQOL向上をめざして,術式に改良を加えていくことが大切であると思います。私たちは,尿禁制機構に重要な骨盤内の解剖学的構造の“温存”“再建”“補強”が,前立腺全摘除術後の尿禁制の保持に重要と考えています。
前立腺全摘除術では,尿禁制に関わる骨盤内構造の損傷は不可避で,尿禁制保持のためには,これを最小限にとどめること,すなわち可及的な温存が最も重要です。骨盤内の解剖学的構造の温存には,膀胱頸部温存,恥骨前立腺靱帯温存,肛門挙筋膜温存,尿道長の温存,神経温存,精嚢温存などがあります。ただし,根治的前立腺全摘除術の最大の目的は,断端陽性をなくし,がんを完全に摘除することであり,解剖学的構造の温存とはある意味相反します。したがって,骨盤内構造を可及的に温存することが尿禁制保持には最も重要と考えますが,尿禁制を上乗せするための補完的効果をねらった再建や補強も,重要な手技であると思います。
再建術として一般的に行われている術式は,後壁再建で,前立腺の摘除により途切れた尿道後面のrhabdosphincter,膀胱頸部のDenonvilliers筋膜,retrotrigonal layerの連続性を再建する術式です。その他,恥骨前立腺靱帯や括約筋周囲の支持を目的とした前壁再建,効率的な腹圧の吸収が可能となる骨盤筋膜腱弓への膀胱頸部の固定などがあります。さらに,膀胱頸部縫縮,膀胱頸部挙上術など,機能的尿道長の延長,膀胱尿道周囲支持組織の補強,膀胱頸部の補正,後部尿道膀胱角の延長などを目的とした補強術も有効です。
一方,前立腺全摘除術後の尿失禁には,手術手技のみならず,患者の年齢,併存疾患,BMI,術前下部尿路症状の存在,前立腺サイズ,前立腺手術の既往など,多くの要因が影響を及ぼしうることが知られています。したがって,個々の患者には術前にこのような要因の有無を説明した上で,術後ケアにあたらなければなりません。
尿禁制の評価方法も非常に重要です。一般的にはpad枚数を尿禁制評価に用いる報告が多くみられますが,これのみでは正確な評価ができないと考えます。私たちは術前後に,IPSS(International Prostate Symptom Score:国際前立腺症状スコア),OABSS(Overactive Bladder Symptom Score:過活動膀胱症状質問票),ICIQ-SF(International Consultation on Incontinence Questionnaire-Short Form:国際尿失禁会議質問票)などの質問票による主観的評価のみならず,排尿日誌,pad test,膀胱造影,尿流動態検査などの客観的評価を行い,尿禁制を維持するための術式のアウトカムを正確に評価する試みを行っています。
また,最近普及しつつあるロボット支援手術は,三次元の高画質な視覚によって微細構造の認識性に優れることに加え,自由度が高い鉗子およびモーションスケールにより,正確で繊細な操作が可能となりました。したがって,従来手術では難易度が高く熟練を要した手技でも,比較的安定して施行できるため,尿禁制保持のための手術手技のさらなる改良や開発が期待できると思います。

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