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毒蛇咬傷の応急手当と治療の最新情報

No.4772 (2015年10月10日発行) P.56

一二三 亨 (香川大学医学部附属病院救命救急センター/国立病院機構災害医療センター臨床研究部 客員研究員)

登録日: 2015-10-10

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

毒蛇咬傷の局所応急処置とその後の治療にはまだまだ誤解が多いようです。一般人が現場で速やかに行うべき応急手当と医療人が行う局所処置の最新の考え方はどのようになっているのでしょうか。併せて抗毒素血清を使用すべき症状と時期についても,明確な基準がよくわかりません。
毒蛇咬傷の応急手当と治療の最新情報を香川大学・一二三 亨先生にご教示頂きたく存じます。
【質問者】
丸藤 哲:北海道大学侵襲制御医学講座救急医学分野教授

【A】

日本ではマムシ,ヤマカガシ,ハブの3種類の毒蛇が生息しており,咬傷事例が発生しています。ご指摘のように,治療法については各医師それぞれの経験に基づいた治療が行われているのが現状であり,スタンダードな治療が展開されているわけではありません。そこで,厚生労働科学研究の研究班として日本における蛇毒咬傷について整理して報告しました(文献1)。
局所応急処置につきましては,切開,吸引,駆血などの有効性は証明されていません。救急外来では,まず蛇咬傷を疑った場合には入院させて経過をみることがきわめて重要です。疼痛や腫脹が強く,また出血傾向をきたしている場合には有毒蛇咬傷の可能性があり,専門家に連絡の上,指示を仰ぐ必要があります。
抗毒素はウマ血清からつくられた製剤であり,アナフィラキシーや血清病などの副反応に注意する必要があります。しかし,蛇毒に対する唯一の根本治療薬であることから,副反応を恐れて抗毒素を投与しないのではなく,アナフィラキシーに対する十分な準備のもとで,必要な症例に対しては躊躇なく使用する必要があります。
抗毒素の投与基準は,マムシの場合は,マムシgradeⅢ以上(肘・膝関節までの腫脹),ヤマカガシの場合はフィブリノゲン値 100mg/dL未満が基準となります。ハブは投与基準が明確ではなく,沖縄・奄美地方の医師でそれぞれ対応が異なります。
マムシ,ハブ抗毒素は保険認可薬ですので,すぐに入手することができますが,ヤマカガシ抗毒素は未承認薬であることから,抗毒素の使用に際しては上記の研究班(文献1) への連絡が必要です。
ハブは現在沖縄・奄美地方に限局していますが,地球温暖化の影響で今後本州での生息の可能性も否定できないため,沖縄・奄美地方以北の医師もその治療法について認識が必要です。

【文献】


1) Hifumi T, et al:J Intensive Care. 2015;3(1):16.

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