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嘔吐,食欲低下,歩行困難のために入院した73歳,糖尿病男性 [国立国際医療研究センター臨床カンファレンス(7)]

No.4713 (2014年08月23日発行) P.38

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-03-27

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  • 難易度★★★★☆

    司 会:今日は,内分泌代謝科からの発表です。

    担当医:2型糖尿病で通院中の73歳男性に嘔吐,食思不振,歩行困難が生じました(スライド1)。

    司 会:いろいろな問題があるので,まず症状の意味を整理するために質疑応答をお願いします。

    会 場:血糖管理が難しそうな人ですが,この時点でコントロールはどうだったのですか。

    担当医:HbA1c 12%前後で,非常に不良でした。

    歩行障害・消化器症状の解釈

    会 場:立ち上がれないというのは,麻痺ですか,両側性の問題ですか。

    担当医:両側性です。診察上の脱力はなく,ぐらつく,転びやすいという症状です。

    会 場:失調性歩行とは違うのですね。

    担当医:麻痺や失調ではなく,深部覚障害と考えました。亜急性連合性脊髄変性症も考えてビタミンB12を測りましたが正常,貧血・膀胱直腸障害もなしです(注:連合性=側索+後索)。

    会 場:ろれつが回らないのは,脳神経障害の所見を伴っているのでしょうか。

    担当医:次に示しますが,脳神経系は異常なく,客観的な構音障害もありませんでした。

    会 場:嘔吐,食思不振は急発症ですか。既往の難聴に最近の変化はありましたか。

    担当医:消化器症状は亜急性で激しくなく,頻繁な嘔吐でもなく,ややあいまいな症状です。難聴は耳鼻科で年齢相応とのこと。眩暈もありません。

    会 場:芍薬甘草湯は常用薬ですか。ラシックス併用だと低K血症も連想しますが。

    担当医:こむらがえりに,ときどき使っていた程度です。入院時の血清Kは正常です。

    司 会:脊髄変性症や小脳脊髄変性症の所見がなく,心筋梗塞の既往から動脈硬化は考えられますが,脳血管障害が今回発症したのでもないわけですね。次に進んで下さい(スライド2)。

    会 場:糖尿病性神経障害はあるに違いないと思うのですが,新たな問題は,歩けなくなったことですね。消化器症状と一緒に起きた何らかの神経障害と解釈しました。麻痺でないことと,CTで脳腫瘍と硬膜下血腫は否定されたと思いますが。

    担当医:ここまでの検討で,私たちは別種の神経疾患が起きたとは考えませんでした。

    司 会:糖尿病性神経障害が進んだのか,体調不良が生じて強調されたのかわかりませんが,国試問題でなく実地診療だから,全体を一元的に言える保証はないですね。神経障害と別に消化器症状と多関節痛が出現したと考えて,さらに今の所見の中での客観的異常を皆さん挙げてみて下さい。

    会 場:腋毛・恥毛の脱落は恐らく異常です。厚着という記載は甲状腺機能低下症の可能性があります。嗄声や乾燥肌が認められず,硬性浮腫でなくpitting edemaとなると強く疑いませんが……。

    担当医:まず診療した順序に沿って,入院当日の一般データを示します(スライド3)。


    CRP:C-reactive protein

    会 場:甲状腺機能低下なら高コレステロール血症や,汎血球減少を想像しましたが,はずれでした。中性脂肪が高いのは一致しそうですが。

    残り2,344文字あります

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