株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

SSRI・SNRIとベンゾジアゼピン系抗不安薬併用の問題点

No.4760 (2015年07月18日発行) P.62

鈴木映二 (国際医療福祉大学熱海病院心療・精神科教授)

登録日: 2015-07-18

最終更新日: 2016-10-18

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【Q】

わが国でも選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor:SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(serotonin-norepinephrine reuptake inhibitor:SNRI)がかなり普及していますが,欧米と異なり,ベンゾジアゼピン系抗不安薬の市場と入れ替わったわけではないようです。結果的に両者の多剤併用が問題となっており,2014年10月より診療報酬減額による処方制限の措置がとられています。
私見では,わが国ではSSRIやSNRIに対する忍容性が低く,結果的にベンゾジアゼピン系抗不安薬が併用されることが多いように感じます。このことについて,何らかのエビデンスがあるのでしょうか。国際医療福祉大学熱海病院・鈴木映二先生のご教示をお願いします。
【質問者】
黒木俊秀:九州大学人間環境学研究院臨床心理学専攻 教授

【A】

ご質問を頂き,改めて日米における最大用量を調べてみました(出典はいずれも2014年12月21日時点における最新のインタビューフォーム)。
エスシタロプラムは日本では20mg(に対し米国では20mg)で,以下,同様にセルトラリン100mg(200mg),デュロキセチン60mg(120mg),パロキセチン50mg(60mg),フルボキサミン150mg(300mg),ミルナシプラン100mg(200mg)です。つまり,エスシタロプラムの最大用量は日米で同じで,パロキセチンは米国の約8割まで,そのほかは半分の量までしか使えません。ちなみに米国と欧州各国の最大用量はほとんど同じです。
それではなぜ,日本では最大用量が抑えられているのか。その大きな要因の1つは,日本人はシトクロムP450(CYP)1A2と2D6の遺伝的多型の頻度が高く,両者とも半数近くの人が野生型をホモで持つ人の半分くらいしか薬を代謝できないからです。したがって,用量を守っている限り(あくまで薬物動態学的にですが)日本人でも欧米人と同等の忍容性はあると思われます。
エスシタロプラムとパロキセチンに関しては,遺伝的多型による血中濃度の違いをデータとして示した結果,危険性はないという判断から,欧米に近いか,同じ用量までの設定が認められています。したがって,この2つの薬に関しては,日本人の場合は,遺伝的多型による忍容性の低さを示す人の割合が欧米人より高くなると思われます。また,日本人の場合は,ほとんど代謝できない多型を持つ人も少ないながら存在しており,その場合,血中濃度が10倍くらいに上がることが予想されるので注意が必要です。
次に,ベンゾジアゼピン(benzodiazepine:BZ)との併用ですが,通常の代謝ができる日本人の場合には,十分な量を使えない抗うつ薬が多いので,効果の不足分をBZで補わざるをえない場合があると推測することが可能です。それでは,日本でも欧米並みの量が使えるエスシタロプラムやパロキセチンを使えばよいかというと,有害事象や飲み合わせの問題などもあり,一概にはそうとも言えないことを付け加えたいと思います。
ただし,欧米でも,急性期にBZを併用することは決して否定されていません。推奨はされていませんが,1カ月以内では抗うつ薬のアドヒアランスを高める作用があるという臨床データもあります。日本の場合はBZの併用を漫然と続けることに問題があるという可能性もあります。いずれにしても,日本におけるBZ処方の多さは海外からも批判されています。BZを併用する場合も,なるべく量を少なくするなどの工夫をしていかなければならないと思います。

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top