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大腸の過形成性ポリープにおける鋸歯状病変の診断・取り扱い

No.4754 (2015年06月06日発行) P.53

斎藤 豊 (国立がん研究センター中央病院内視鏡センター長・内視鏡科科長)

藤井隆広 (藤井隆広クリニック理事長)

登録日: 2015-06-06

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

最近,大腸の鋸歯状病変が注目されています。従来,過形成性ポリープは非腫瘍性病変として内視鏡的切除の対象とならないと考えてきましたが,sessile serrated adenoma/pol-yp(S SA/P)という腫瘍の性格を持つ鋸歯状病変の存在が明らかになるにつれ,癌化の危険性を無視できなくなってきました。特に右側結腸に発生する10
mmを超える大きな鋸歯状病変はSSA/Pの可能性が高く,進行癌に進展した場合は予後が悪いという報告もあります。5mmを超える大きさの通常の腺腫は内視鏡的切除の対象とする施設が多いと思いますが,5mmを超える大きさの鋸歯状病変の診断,取り扱いについて,国立がん研究センター中央病院・斎藤 豊先生のご教示をお願いします。
【質問者】
藤井久男:奈良県立医科大学附属病院 中央内視鏡・超音波部病院教授

【A】

従来,非腫瘍性病変として扱われてきた大腸の鋸歯状病変(serrated polyp:SP)において,ご質問のように近年,病理組織学的に腫瘍性変化のある病変が指摘されるようになり,さらには癌化や遺伝子学的に悪性化の可能性が報告され,これらの病変の取り扱いに若干の混乱が生じています。
過形成性ポリープ(hyperplastic polyp:HP)は,(1)HPの中で最も多く存在しており,鋸歯状所見の目立つ,BRAF変異陽性が特徴のMVHP(micro vesicular type HP),(2)鋸歯状所見の乏しい杯細胞豊富,BRAF変異陰性のGCHP(gob-let cell rich variant HP),(3)HPの中では最も少なく鋸歯状所見が目立たない杯細胞の少ないMPHP(mucin poor variant HP),の3つに分類されます(文献1~3)。
問題となるSSA/Pの由来は,鋸歯状所見の目立つMVHPが有力候補とされ,第4版WHO分類(文献3)でも,MVHPの一部がSSA/Pに発育し,cytological dysplasiaを介し,癌化へと進展すると記載されています。
これに基づき,欧米では直腸S状結腸の多発する5mm以下のHP以外はすべて摘除する方針となっているようですが,実際のところ,そこまでする臨床的意義は明確ではありません。SSA/Pの自然史に関しては不明な点が多く,また病理学的診断基準に関しても統一されたとは言いがたい状況です。
従来,現在のSSA/Pに相当する右半結腸の1cm以上のHPはlarge hyperplastic polyp(LHP)などと呼称され,癌化の可能性も指摘され,内視鏡的摘除が行われてきました。また,serrated poly-posis syndrome(文献4)(SPS)に関しても,癌化の高リスク群として,内視鏡的摘除と経過観察が必要であることには異論がないかと思われます。
当院でも,1cm未満のHPに関しては右半結腸においても,従来摘除の対象とはしていませんでしたが,その後,浸潤癌が発生して痛い目にあったといった経験は幸いにしてありません。また,SSA/Pから発生したと考えられる早期癌を10例ほど経験しましたが,1例のTis(上皮内癌)を除いていずれの症例も腫瘍径1cm以上で,発赤,陥凹,結節といった何らかの異常所見が通常内視鏡観察で認められました。秋田赤十字病院の山野らも,ピットパターン診断を詳細に行うことで,SSA/P with cytological dysplasiaの診断はある程度可能であろうとしています。
研究会などでSPから発生したと考えられる浸潤癌の報告が散見され,最近SSA/Pに対して過度の注意が払われているように感じますが,進行癌の遺伝子変異でBRAF変異陽性かつマイクロサテライト不安定性(microsatellite instability:MSI)-highの症例がすべてSSA/P由来と断定されたわけでもないと考えます。
前処置の改良,内視鏡の高画素化,色素内視鏡やNBI(narrow band imaging)の普及から,以前より多くのSPが発見されるようになってきました。欧米のようにすべてのSPを摘除することは,内視鏡医,患者,病理医にとっても負担ですし,コストや出血など偶発症の問題も生じてきます。
大腸内視鏡の保険適用の問題もあり,米国のように大腸内視鏡検査のコストが高く,一生に一度しか内視鏡検査を受けないという前提であれば,すべての病変をSPも含めて摘除するといったストラテジーも成り立ちます。
一方,見逃しを防ぐため,3年後程度に経過観察が可能という前提に立てば,内視鏡的に何らかの腫瘍性変化を疑うSP,1cm以上のSP,SPSの症例や,traditional serrated adenoma(TSA)やmixed polypといった腺腫成分を有する病変以外のSPに関しては,経過観察でも問題ないのではないでしょうか。SSA/Pの自然史には不明な部分も多いため,確定的なことは述べられませんが,ご質問に対する一助となれば幸いです。

【文献】


1) 藤井隆広:東邦医会誌. 1997;44(3-4):279-87.
2) 藤井隆広, 他:早期大腸癌. 2000;4(5):443-51.
3) WHO:Classification of Tumors of the Digestive Systems. 4th ed. Bosman FT, et al, ed. Inter-national Agency for Research on Cancer, 2010.
4) Toyoshima N, et al:Mol Clin Oncol. 2015;3(1):69-72.

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