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「こころのケア」の長期的な後方支援を [お茶の水だより]

No.4717 (2014年09月20日発行) P.12

登録日: 2014-09-20

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▼「福島原発事故が福島県民にとって『恥』から、(事故の影響を克服して)『誇り』に変わる時が来ると信じています」。福島原発事故から3年半を経た今月8~9日、福島県で放射線の健康影響に関する国際会議が開かれた。この中で、福島県伊達市に住む育児世代の女性が講演し、このように締めくくった。
▼国際会議では、福島県立医大の医師や、世界保健機関、国連科学委員会など海外の放射線の専門家も議論。その結果、「原発事故の被ばくのレベルは放射線による影響が認められないほど低く、将来的にもその可能性は低い」と総括する一方で、「長期の持続的な放射線の存在は、個人、家族、コミュニティの生活に深いインパクトを与えている」と懸念した。
▼冒頭の女性は事故後、放射線の講演会に多数参加し、子どもの内部被ばくを防ぐ母親の責任を実感したと振り返り、義理の父母とともに福島で暮らし育児をする幸福と覚悟を語った。しなやかで強い女性の話に大きな拍手が湧いたが、会議では、前向きな住民ばかりではないことも報告された。仮設住宅で活動する保健師は、農作業の機会を失った高齢者の「手足をそぎ落とされたよう」と嘆く声や練炭自殺実行寸前の住民を救助した経験を紹介。「前向きな人と喪失感を持つ人で二極化している」と指摘し、喪失感を抱く人への継続的支援の必要性を強調した。
▼精神科医からの報告は、こころのケアに取り組む覚悟がにじむ。南相馬市の精神科医、堀有伸氏は「地元住民は県外から来た人を誠実な人間かどうか試すことがあり、それを乗り越えないとコミュニケーションできない」と指摘。自身も事故後に福島に移住したことから住民との交流に積極的に取り組んでいることを紹介するとともに、住民と信頼関係を築くためには時間が必要であることを政府は認識してほしいと話した。また、福島県立医大精神科の矢部博興教授も、こころのケアを行う医療従事者には「誠実」「忍耐」「見捨てない」の3要素が欠かせないと強調し、「メンタルケアは最低30年間必要であると政府に伝えたい」と訴えた。
▼国際会議では会議終了後に提言をまとめ、安倍晋三首相に手渡した。提言の1つは、『保健医療・地域福祉従事者増員への支援』だ。会議の議論は、こころのケアには人間関係の構築を含めて継続的で地道な支援が必要であることを教えてくれる。こうした声を復興対策に生かすため、福島の医療保健従事者の意向に沿った後方支援の強化が必要だ。

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