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DPATの活動や被災精神科病院の現状が報告 - 熊本地震で緊急企画 [第112 回日本精神神経学会学術総会]

No.4807 (2016年06月11日発行) P.9

登録日: 2016-06-11

最終更新日: 2016-12-06

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【概要】第112回日本精神神経学会学術総会が2~4日に千葉市で開催された。2日に開かれた熊本地震を巡る緊急企画では、今回初めて精神科医療機関の患者搬送を行ったDPAT(災害派遣精神医療チーム)の活動や、被災した精神科病院の現状が報告された。

熊本地震での活動について報告したのはDPAT事務局次長の渡路子氏(写真上)。DPATは災害や事故の後、被災地域に入り精神科医療や精神保健活動の支援を行う専門的なチームで、東日本大震災を契機に発足した。
熊本地震では精神科医療機関の入院患者の搬送を中心に活動し、7施設の合計591人(県内319人、県外272人)を搬送。渡氏は「東日本大震災で搬送された精神科病院の患者約1200人のうち、10人以上が搬送中に亡くなった。今回は搬送中の死亡事例がゼロだったことが一番大きな成果だ」と強調した。
一方、今後の課題として人材育成や精神科医療での搬送基準の開発、DPAT本部と現地との情報共有がスムーズでない面があったことなどを列挙。今回の熊本地震ではDPAT研修を未履修のチームも活動していたことから、現在は都道府県に任されている研修の内容を全国で統一するなど、人材育成を早急に進める考えを示した。搬送基準については「救命が基準の災害派遣医療チーム(DMAT)と異なり、精神科の患者は歩けるからといって軽症ではない。どういう基準で搬送するか精神科医療の側で開発する必要がある」と述べた。
このほか、災害時に医療機関の稼働状況などの情報を共有するための「広域災害救急医療情報システム(EMIS)」に登録していた熊本県内の精神科医療機関は数カ所のみだったことを指摘し、「すべての精神科医療機関に登録してほしい」と呼びかけた。

●「精神科病院、医療以外の機能にも支援を」
緊急企画には熊本県で精神科病院や関連施設を運営する犬飼邦明氏(益城病院理事長、写真下)も登壇し、被災した自院の現状を報告した。
益城病院は建物の基礎が大きく損傷してライフラインも一部回復しておらず、2日現在、完全復旧のメドは立っていない。入院患者は全員、前震翌日の4月15日に退転院した(退院50人、転院149人)。外来と訪問診療を再開したが、入院機能は大幅な縮小を余儀なくされている。
犬飼氏は、関連施設の特別養護老人ホームに地域の住民が大勢避難してきたために県の災害本部に応援を要請したが、介護分野は管轄外とされたことを紹介。精神科病院の機能は医療にとどまらず、介護・福祉・保健など広範囲にわたることから、「災害医療支援では医療以外を含めた精神科病院の機能全般をサポートするという視点が求められる」と訴えた。精神科病院の医療以外のニーズを拾い上げる方策として、行政の災害対策本部や医療救護調整本部に精神科病院協会などの団体を加えることも提案した。

【記者の眼】
渡氏は重症心身障害病棟の患者搬送が困難を極めたことを報告。災害時に発生する精神科領域特有の問題に平時から備える重要性を感じた。(K)


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