株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る『ワクチン接種と超過死亡との因果関係』」鈴木貞夫

No.5204 (2024年01月20日発行) P.54

鈴木貞夫 (名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)

登録日: 2024-01-09

最終更新日: 2024-01-09

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Think Vaccine主催のシンポジウム「感染症および感染症対策に関する情報の正確性・包括性について」に参加し、疫学の立場から因果関係の考え方について講演した1)。シンポジウムの論点は、ワクチンの副反応についてや、これまで国として取り組んできた予防対策にどのような問題が考えられるか、というような内容であった。私は疫学的内容、特に「因果関係をどう考えるか」に限定して講演した。

総論的事項として、疫学的因果関係は人数を数えることによっており、関連のメカニズムがブラックボックスでも判断可能であること、因果のメカニズムが不明であるからこそ数で判断するのが重要であり、因果関係のエビデンスをつくるのも疫学であること、因果のメカニズムが不明の死亡で「因果関係不明」が圧倒的に多数なのは、調べてもわからないからであることについて、最初に述べた。

「メカニズムがわからないから数えている」はずなのに、「個々の事例を調べればワクチンの関与がわかる」と考えるのはおかしいと私たちは考えている。ただ、そのことを市民に説明するのは困難である。

後半は、「コロナワクチンが日本の死亡を増やしているか」について、疫学の立場から検証を行った。当欄でも何度か述べた通り、国別の散布図を示すようなエコロジカル研究での相関係数を根拠に、ワクチン接種率が高い国では超過死亡が多いという主張2)そのものが、研究デザインとしてエビデンスが低いということは、既に論説として示している3)

もう1つの観点として、散布図の軸の「超過死亡」が、「ワクチンによる超過死亡」という文脈で、どの国も同じように解釈できるかという問題を指摘した。たとえば、ブルガリアはワクチンも超過死亡も少ない国として扱われているが、ブルガリアの超過死亡の少なさの原因は、「コロナ大流行による世界第2位の死亡」の後に反動として現れた過少死亡と見るほうが自然であり、ワクチン接種率の低さを無前提に結びつけるのは危険だ。

また、ワクチン接種と超過死亡の相関も3回目接種では、互いのピークが一致するなど高相関が見られた。この時点で両者の関連を「あり」と固定してしまい、その後死亡が多い時期に、無検証で「この死亡の多さはワクチン以外に考えられない」とする考え4)をSNS上で数多く見てきた。しかし、2022年12月から翌1月にかけて超過死亡が激増した時期に、ワクチン接種は3分の1以下に激減している(5回目接種終盤)。また、6回目接種のピークに、超過死亡はマイナス、総死亡は谷を示しており、関連は「ない」または「負」である。

接種回数と死亡との関連を相関係数で示すのであれば、一時的なものではなく、常に高い相関が見られる必要がある。現時点で、戦後最大の超過死亡が観察され、その原因はワクチンであるという考え方には、疫学的に見てたくさんの矛盾があり、フェアな考え方からの結論とは考えていない。

【文献】

1)YouTube:シンポジウム「感染症および感染症対策に関する情報の正確性・包括性について」.(2023年12月19日)
https://www.youtube.com/watch?v=pIq0LC5COuQ

2)小島勢二:ビッグデータが示す昨年後半から続く超過死亡の要因. アゴラ言論プラットフォーム.(2023年4月26日)
https://agora-web.jp/archives/230425035332.html

3)鈴木貞夫, 他:東海公衆衛生.(早期公開, 2023年11月9日)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tpha/advpub/0/advpub_2023-11/_pdf/-char/ja

4)田口 勇:元厚労省官僚が警鐘「ワクチン接種期に震災以上の超過死亡」. プレジデント, 2022年12月16日号.
https://president.jp/articles/-/63781?page=2

鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[疫学的因果関係]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

関連物件情報

もっと見る

page top