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【識者の眼】「三田市の混乱から見えてくるもの」榎木英介

No.5200 (2023年12月23日発行) P.56

榎木英介 (一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事)

登録日: 2023-12-12

最終更新日: 2023-12-12

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選挙で病院の統合がひっくり返る……。

医療界に衝撃を与えた兵庫県三田市の市長選挙のことはすでにこの欄で取り上げた(No.5182)。

選挙から4カ月が経ち、情勢が大きく変化した。市長が病院の統合を撤回するという方針を取り下げた1)

市長はこの4カ月ほど、関係機関を訪ね、様々な意見を聴いた。特に、三田市民病院の医師たちの要望書が大きかったようだ。

医師不足、働き方改革、少子高齢化、市の財政などを考えれば、これしかなかったのではないか。いろいろな条件を入力したら、10km離れている神戸市の総合病院との統合が現実的な選択肢と言える。

原理原則より、持てる条件から最適解を選んだのは、ビジネスマン出身の市長らしいと言える。

とは言え、市長選挙では統合の白紙撤回を掲げて前市長を破り当選したのだ。いくら理由を述べても、公約破りという批判は免れない。

もしいま再度選挙をやれば、再び統合撤回派が当選する可能性が高い。また同じことを繰り返すのだろうか。

しかし、民主主義は選挙だけではない。

急激な少子高齢化が進む日本では、患者予備軍の高齢者は増え、働き手かつ納税者の若者は減り続ける。

過労死する若い医師をこれ以上なくしたい。これと同時に医療体制を維持するためには、何をすべきか。地域住民も丁寧に説明すれば、きっと理解してくれると思う。

もちろんそこに、病院から近い場所に住む人と遠い場所に住む人の格差は生まれる。そうなると、コンパクトシティ化がある種不可欠になると言える。病院への足の確保も含め、統合のデメリットを軽減する施策は取れるはずだ。

まだ任期のある市長には、住民に対する丁寧な説明と同時に、住民の不安やアイデアを聴きながら、街から病院がなくなるデメリットを軽減する施策を期待したい。

ここで問われているのは、単に病院存続の有無ではない。少子高齢化という過酷な現実に少しでも抗い、街の消滅というハードランディングをせめてソフトランディングに変えるという、現実的な未来を考えることなのだと思う。

三田市で起こっていることは、日本のあらゆる街の未来を先取りしたことなのだ。

【文献】

1)神戸新聞NEXT公式サイト:三田市民病院の再編統合、推進を表明 田村市長「白紙撤回」の公約撤回.(2023年11月24日)
https://www.kobe-np.co.jp/news/society/202311/0017060678.shtml

榎木英介(一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事)[病院の再編統合][少子高齢化と人口減少]

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