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【識者の眼】「日本の知性の不経済」岩田健太郎

No.5199 (2023年12月16日発行) P.62

岩田健太郎 (神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)

登録日: 2023-11-30

最終更新日: 2023-11-30

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日本の知性の不経済が横行している。危惧している。

学校受験の過熱化、若年化もその1つだ。ひとの学びは一生ものだが、受験勉強に精根つくして燃え尽き、その後勉強しなくなる輩のなんと多いことか。医療界も例外ではない(まじで)。最初の1kmを短距離走よろしく疾走し、その後力尽きてしまう無計画なマラソン選手のようである。

そもそも偏差値の高い人間たちがこぞって医学部をめざすのが「経済的」ではない。知性はもっとバランスよく配分されねば国益という観点からは危うい。そもそも、私見を述べれば医師になるのにそれほど高い知性は要しない。ロケット・サイエンスを理解しなくても医師にはなれるし、医業はできる。もちろん、頭の抜群によい医師がそこそこいたほうがよいとは思うが、そのバランス配分が歪に過ぎる。

皮肉なことにこのような歪さが医療そのものの質を低くした可能性すらある。

僕が若かった頃は日本はハイテク国家と世界に見なされていたが、今や日本はこの領域で他国に大いに後れを取っている。電子カルテ情報の自動集約や解析ができず、患者がスマホでカルテを読むこともできない。薬剤師は気の毒に、処方箋情報だけで医療の質を推論せねばならない(カルテを院外で読めないから)。今どき、画像情報をCDに焼いている先進国がどこにあるだろう。マイナカードが象徴的だがなんでも「モノ」に変じなければならない、という発想自体が時代遅れだ。

日本のITは米国や中国などから遥かに後れを取っており、これが新型コロナ対策を「しんどく」した。30年前にもっと優秀な人材をテクノロジー分野に配分していればこのような悲劇は起きなかっただろう。

というか、そもそも受験的な頭脳が知性の評価基準になっている事自体が危うい。

「受験的な頭脳」は存在している選択肢から正しい解答を選び出す能力において抜きん出ている。しかし、正答がない命題と取っ組み合ったり、そもそも「命題は何なのか」を熟考する能力はそこでは度量されないし、「即答できる」能力がやたら高い分、熟考能力は逆に低かったりする。「眠れません」という患者に睡眠薬を処方する事はできても、「なぜ眠れないのか」という真の問題を掘り下げる医師はあまりに少ない。

諸外国の人に比べて日本人は頭が悪いなんて世迷い言を僕は信じないが、現存する知性の配分には相当のミスマッチがあり、これが日本の苦境を招いているとは思う。抜本的に直さないと、将来は相当しんどい。

岩田健太郎(神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)[医学部進学][知性の評価基準]

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