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【識者の眼】「人口減少に向かう世界、ケアは誰が担うのか」小倉和也

No.5193 (2023年11月04日発行) P.60

小倉和也 (NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)

登録日: 2023-10-17

最終更新日: 2023-10-17

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世界の人口学者が人類全体の人口が近々減少に転じると予想している1)。日本は言うまでもなく少子高齢化の最先端を走っている。この問題はつまるところ、子育てなどのケアを誰が担うべきかという問題が解決していないことに起因しているのではないだろうか。

この問題は人類にとって決して新しい問題ではない。平均寿命の短い時代において介護問題は今ほど大きくなかったとしても、男女が同じように職業を持った場合に子育てをどのように分担するかはプラトンも『国家』の中で既に論じており、最終的に家族を解体し、すべて国家が担うべきとしている。強制的に家族を解体することはないとしても、国家がその平等性を担保するという点では現在の社会保障に通ずるものがある。

社会全体で見るとまだまだ介護や子育ては女性の仕事とみなされることが多く、子どもが病気になると主に母親がケアを提供する労働力として犠牲を強いられる状況も続いている2)。両親と働く男性と専業主婦がいる家庭制度が前提となっているため、ひとり親家庭、特に母子家庭の貧困率は先進国でも最悪の部類となっている3)。専業主婦のいる家庭を優遇することは他の家族形態への負担転嫁を意味しており、「年収の壁」が根本的に撤廃されることも当然重要であろう。

地域包括ケアのいわゆる「植木鉢の図」に示されている構図は、真ん中の「介護・リハビリテーション」を「教育・スポーツなどの活動」とでも置き換えれば、そのまま子どもにも当てはまるように思う。日本でも子育て支援のあり方や扶養控除の見直しが議論されているが、かつて子育て支援で出生率を改善させた欧米の国々も同様に少子化がまた進んでいる。もはや子育て、介護などのケアの多くを、家族、特に女性が無償で担うことを前提とした制度は、人類社会の存続を危ういものにしていると言える。

従来の形での家族のあり方やそれを前提とした社会制度を見直し、男女が同等に職業に従事しながらでも、高齢者だけでなくすべての子どもや病気・障害のある人の生活の基盤も平等に保障される形が早急に検討されねばならない4)。医療のあり方も当然大きく変わらなければならないだけでなく、むしろ変革の一端を積極的に担っていく必要があるだろう。

少子高齢化は日本だけの問題ではなく、女性や高齢者だけの問題でもない。家庭医として、そして在宅医として、家族を前提とした医療や社会のあり方をどのように変えていくべきか現場から考えていきたい。

【文献】

1)The New York Times公式サイト:The World’s Population May Peak in Your Lifetime. What Happens Next?(2023年9月18日)
https://www.nytimes.com/interactive/2023/09/18/opinion/human-population-global-growth.html

2)The Japan Times公式サイト:Hospitals criticized for failing parents of young patients.(2023年10月1日)
https://www.japantimes.co.jp/news/2023/10/01/japan/science-health/children-hospital-care/

3)田宮遊子:社会保障研究. 2017;2(1):19-31.
https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/sh17020103.pdf

4)Lewis S:Abolish the Family-A Manifesto for Care and Liberation. Verso, 2022.

小倉和也(NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)[家族と国家][地域包括ケア]

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