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【識者の眼】「解糖系酵素アルドラーゼとの出会い─私の研究事始め」浅香正博

No.5178 (2023年07月22日発行) P.63

浅香正博 (北海道医療大学学長)

登録日: 2023-07-10

最終更新日: 2023-07-10

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1974年のある日、主任教授から呼ばれ、学位論文のテーマを頂いた。ヒト筋肉からアルドラーゼを精製、結晶化し、それを用いて血清アルドラーゼの微定量法を開発せよということであった。

アルドラーゼは解糖系酵素の一員であり、果糖1,6-2リン酸を分解する。血清アルドラーゼ測定は古くからある臨床検査で、肝疾患の他、筋肉疾患でも上昇する。

アルドラーゼには、A、B、Cの3つのアイソザイムの存在が知られており、Aは筋肉、Bは肝臓、Cは神経と脳に含まれており、臓器特異性が高いことが知られていた。Aは筋肉以外に癌組織にも多く含まれており、アイソザイム分析ができれば癌の診断にも有用であると考えられていた。

しかし、血清アルドラーゼアイソザイムの分析は、通常行われる電気泳動法では困難であった。そのため、基質を変えてアルドラーゼを測定し、その活性比からアイソザイムを推定する間接的方法で分析が行われていた。

そこでヒト筋肉からアルドラーゼAを精製し、その抗体を作成し、RIAを行えば微定量法が確立できるのではないかと考えた。ヒト筋肉をミンチしてミキサーにかけ、硫安法にて得られた沈殿を濾過してからフォスフォセルロースカラムに添加し、十分洗浄してからアルドラーゼの基質である果糖1,6-2リン酸を投与した。

数回繰り返すと美しい結晶を得ることができた。次のステップは抗体を得ることである。精製アルドラーゼAをアジュバントとともにウサギに投与してみたが、一向に抗体を得ることができなかった。文献を探るとアルドラーゼAは、最も原始に近いアイソザイムであり、哺乳動物一般に交叉反応があることがわかった。そのため、動物をニワトリに変更して行ってみた。ニワトリの扱いは誰に聞いてもわからなかったが、たまたま十二指腸潰瘍で入院していた農学部の大学院生が退院後、懇切丁寧に取り扱い方や採血法などを教えてくれた。1カ月後には抗体を得ることができ、寒天培地に抗原抗体反応の白い反応線を見出したときはうれしかった。

いよいよ最終ステップのRIA法の確立である。125IをクロラミンT法にて精製アルドラーゼAを結合させるのである。クロラミンTの濃度を様々に変えていってみたところ、5回目についに標準曲線を描くことができた。

この酵素はきわめて不安定な酵素であり、pHの少しの変化でも抗原性を失うので、通常より中性に近い領域で標識を行ったことが幸いしたと思われる。血清アルドラーゼの高かった検体を集め、RIA法によるアルドラーゼA測定を行ってみたところ、癌疾患は高値を示したが、肝疾患では正常値を示した。つまり、血清アルドラーゼのアイソザイム測定に成功したのである。これが私の学位論文となった。

アルドラーゼアイソザイムはLDHやAl-Pよりも臓器特異性が強いので、血清動態による疾患の分析が可能であるといわれていたが、この学位論文で初めて実証できたことになる。

浅香正博(北海道医療大学学長)[アイソザイム測定]RIA法]

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