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【識者の眼】「どうする、高齢者救急」島田和幸

No.5177 (2023年07月15日発行) P.60

島田和幸 (地方独立行政法人新小山市民病院理事長・病院長)

登録日: 2023-06-30

最終更新日: 2023-06-30

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私が2006年に自治医大附属病院長に就任した頃、栃木県の救急医療体制は完全な逆ピラミッド型であった。すなわち、2つの大学病院の救急患者数が最も多く、次に多いのは県内数カ所の2次救急病院、そして一般的な1次医療機関を受診した患者数が最も少なかった。そのため、大学病院の医師は大いに疲弊し、「立ち去り型サボタージュ」寸前の危機的状態だった。ちょうどその頃、小松秀樹氏が著した『医療崩壊』が話題となった時期である。私たちは、各地区の医師会に、その当時の現状をデータとして示し、協力を要請した。どの地区の医師会の先生も、「事態の異常さ」を認めて下さり、各地に夜間休日診療所が開設された。その結果、1〜3次救急の交通整理が可能となり、逆ピラミッドは解消されて現在に至っている。客観的事実を関係者が共有したことで社会の変革が促された。

当時の救急診療の負荷は、特に「小児」が危機的状況で、おかげで小児科医は大学病院に踏みとどまることができた。現在は、小児よりも「高齢者救急」に問題が移っている。すなわち、地域において急増する後期高齢者以降の救急疾患に誰がどのように関わるか? 問題になるのは、いわゆる医療と介護が関わる「地域包括ケア」の範疇に属する救急疾患、すなわち誤嚥性肺炎、尿路感染症、胆道炎、心不全、大腿骨頸部骨折などである。

現在、人生の終末期に頻発するこれら高齢者救急疾患は、現実の地域医療体制のもとで、個々の病院がそれぞれに対応している状況である。大学病院のように地域の患者を高度急性期機能でフィルターにかけられない私たち第一線の病院では、一般急性期疾患を主たる対象としつつも、介護施設などからの高齢者救急患者が行き場を失って昼夜を問わず頻繁に搬送されてくる。団塊の世代が後期高齢者となった今、「異次元の高齢者救急」が目の前に迫っている。ピンからキリまでのきわめて多様な身体・精神・社会状況の超高齢者救急疾患をどのように交通整理するか、早急に答えを出さねばならない。“とことん医療”か、“まあまあ医療”か、どちらが適切なのか、広くコンセンサスを得るためには、判断の基礎となるデータが必要である。その際、平均年齢を過ぎた高齢者には、生命予後よりも、むしろ機能予後、生命・生活・人生の質、そして経済的コストなどをも考慮すべきであろう。すなわち、老年病学的視点に立つことが前提であるべきだと思う。

島田和幸(地方独立行政法人新小山市民病院理事長・病院長)[高齢者救急][地域包括ケア][老年病学]

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