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【識者の眼】「生成系AIと不気味の谷」土屋淳郎

No.5173 (2023年06月17日発行) P.60

土屋淳郎 (医療法人社団創成会土屋医院院長、全国医療介護連携ネットワーク研究会会長)

登録日: 2023-06-05

最終更新日: 2023-06-05

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ChatGPTなどの生成系AIが注目を集めている。医療分野においては医師国家試験合格レベルであるとか、人間の医師よりも高い質で患者に寄り添った回答ができる可能性があるなどの報告もあり、その能力への関心は高く、第31回日本医学総会2023東京でも話題になっていた。もちろん医療以外の分野でも注目を集め、広島サミットでも議論の1つとなっており、今後は知的財産権の保護や透明性の促進、責任ある活用などの議論が進められると言う。

実際にChatGPTを使ってみると、筆者は野球解説者と説明されているし、他にも頓珍漢な回答をすることもあるが、「生成系AIが医療に与える影響は」との質問にはハッとさせられるような回答を提示してくるので、個人的には、“磨けば光るポテンシャルを持った新人”といった感じの好印象を持っている。教育の現場では懸念もあるとされているが、電卓が発明されても数学の授業はあるし、自動翻訳機が実用レベルになっても外国語の授業はあるので、医療の現場も含め生成系AIともより良い付き合い方が構築されてくるのではないかと感じている。

一方で、生成系AIに対して不気味さを感じる人もいるだろう。人に似せて作られたロボットが人間らしくなるにつれ好感度が高くなるが、ある時点でそれが急に嫌悪感に変わり、この好感度をグラフ化した際のネガティブな感情を「不気味の谷」と呼ぶ。生成系AIは徐々に不気味の谷に近づいているような気がしている。

この現象の原因としては、身近になってきたものの正体が良くわからないときに感じる不安や恐怖、嫌悪感という説があり、この谷を越えると好感度もまた上がってくると言われている。生成系AIが不気味の谷を越えるのはもう少し時間がかかりそうだが、新技術には対応が遅れがちな法整備も急ピッチで行われてくるだろうし、より良い付き合い方が構築されることで不安や嫌悪感も解消されるなら、不気味の谷を越えるのはそれほど遠い未来にはならないのかもしれない。

そして、それまでにわれわれ医療・介護従事者が行うべきは、AIにとって代わられることのない「人間力」を高めておくことではないだろうか。社会・対人関係的要素としてのコミュニケーション能力を向上させることで、患者の言語化されにくい感情を感じる力を高めたり、自己制御的要素としての目標達成能力を向上させることで、患者の想いをかなえられるようできる限りの支援を行ったりする「人間力」の高いわれわれの活動には、AIもかなわないはずである。

土屋淳郎(医療法人社団創成会土屋医院院長、全国医療介護連携ネットワーク研究会会長)[生成系AI][不気味の谷][人間力]

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