全身に1Gy(グレイ)以上の急性放射線被ばくを受けた場合,DNA損傷による細胞死から線量依存性に造血器・消化器・中枢神経系などの多臓器不全(MOF)をきたす場合があり,急性放射線症候群(acute radiation syndrome:ARS)と呼ばれる。被ばくが局所で,障害臓器が皮膚軟部組織に限定される場合を,局所放射線障害(localized radiation injury:LRI)と呼ぶ。体表面への放射性物質付着(外部汚染)は愛護的に除去し,体内への取り込み(内部汚染)による被ばく(内部被ばく)は中毒治療に準じて対応する。
被ばく後6時間以内に出現する前駆症状(後述),原因不明の急激な血球減少(特にリンパ球),原因不明のMOFでは,ARSを鑑別に入れる。原因不明な難治性の局所皮膚障害ではLRIを鑑別に入れる。
放射線被ばくのみでは,急性期にバイタルサインの異常を呈さないことが多い。
被ばく後6時間以内に出現する「悪心・嘔吐,下痢,頭痛,発熱,意識障害」は高線量被ばく(1Gy以上)の前駆症状を疑う。中でも「嘔吐」は感度が高い。前駆症状は48時間以内に消退し,2週間程度の無症候期間(潜伏期)の後にMOFを発症する。
被ばく直後からのリンパ球の著明減少(-50%/日),4時間以内の嘔吐(≧2Gyの急性全身被ばく疑い),続く好中球減少(<1000/μL)では無菌管理可能施設に収容して,被ばく後24時間以内にG-CSFを投与する。
一手目 :グランⓇ注(フィルグラスチム)1回100μg/m2 1日1回(皮下注)
プルトニウム(Pu)曝露後,可及的早期に除染薬を投与する。預託実効線量が200mSv(ミリシーベルト)(年間被ばく線量限度20mSv/年の10倍)を超える内部汚染では投与が推奨され,一方で20mSv以下では推奨されない。
一手目 :ジトリペンタートカルⓇ注(ペンテト酸カルシウム三ナトリウム)1回1アンプル(5mL)1日1回(100mLの5%ブドウ糖液または生理食塩水に混合し,30分かけて点滴静注,あるいは生理食塩水または蒸留水5mLに稀釈して,ネブライザーで噴霧し気道より吸入),週5日連続で1クール(尿・便への排泄量を加味して投与クール・数を決めるため上記薬剤投与前の尿・便を採取しておく)
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