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【識者の眼】「Mpoxと梅毒の患者数の増加と対策」西條政幸

No.5168 (2023年05月13日発行) P.61

西條政幸 (札幌市保健福祉局・保健所医療政策担当部長、国立感染症研究所名誉所員)

登録日: 2023-04-28

最終更新日: 2023-04-28

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当欄で昨年、エムポックスウイルス感染症(サル痘ウイルス感染症)の世界的規模での流行について2回にわたり解説した(No.5139No.5142)。当時はまだ病原体を「サル痘ウイルス」(monkeypox virus)、それによる疾患を「ヒトサル痘」(human monkeypox)と呼んでいた。最近、WHOがそれぞれ「エムポックスウイルス」(Mpox virus、MPXV)、「エムポックスウイルス感染症」(Mpox)と呼ぶことを推奨したので、本稿では疾患名として「Mpox」を用いて、最近の流行について概説したい。

世界各国での流行状況と日本国内での流行状況については、厚生労働省から公表されている(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/monkeypox_00001.html)。2022年に世界規模で大きな流行が発生したが、現在では収束に向かっている。しかし、日本では今年に入り流行が拡大しつつあり、100名を超える患者が報告されている。患者の多くはMSM(men who have sex with men)コミュニティの方々である。この方々の一部で、性行為感染症の病原体のようにMPXVが伝播されている。

一方、2021年以降、性行為感染症の1つである梅毒が大都市を中心に増加している。国立感染症研究所の報告によると、2022年第Ⅰ四半期(1〜3月)の患者報告数が2065人であったのに対し、2023年の同期間の報告数は3493人に増加している(https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/syphilis/2023q1/syphilis2023q1.pdf)。北海道ではその増加の程度が他の地域よりも高く、札幌市においても同様である。梅毒の流行が拡大しているか否かは明らかではないが報告数は増加している。

現在流行しているMpoxも梅毒も、性行為感染症としての特徴を備えている。性行為は人間として、生きる上での人と人との接触の形態として最も濃厚なものの1つである。それゆえMpoxや梅毒の拡がりを抑えることは簡単ではない。

しかし、予防と治療は可能である。Mpox流行に対しては、リスクの高い人々が希望すればMpoxに有効なワクチンを受けることができるようにすること、梅毒に対しては検査や治療を受けることの重要性を周知し、誰もが希望すれば比較的簡単に検査を受けられ、陽性であれば適切な治療が受けられるようにすることが必要である。

感染症対策には、個々の人々に感染予防の実施を求めること以上に、医療システムを改善させる上で有効な対策を提供できるかどうかが重要である。

西條政幸(札幌市保健福祉局・保健所医療政策担当部長、国立感染症研究所名誉所員)[性行為感染症]

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