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【識者の眼】「お薬の添付文書は役に立っているのだろうか?」小野俊介

No.5165 (2023年04月22日発行) P.61

小野俊介 (東京大学大学院薬学系研究科医薬品評価科学准教授)

登録日: 2023-04-11

最終更新日: 2023-04-11

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医療従事者に現在の「薬の添付文書」が役に立っているのかが昔から疑問なのである。

医薬品には必ず「添付文書」が付く。法律に基づき企業が作成する重要な文書である。2021年から紙の添付文書は原則廃止され、電子的な方法での閲覧が基本となった。医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページで誰でも閲覧できる。

添付文書には医師・患者が薬剤を使用する際の重要な基本情報が書かれている……ことになっている。有効成分、効能・効果、用法・用量などが必須情報であることは当然だが、加えて臨床試験の結果(有効率、副作用の種類・発現頻度など)も詳細に記される。

添付文書の書き方は定期的に見直されている。「忙しい医師は添付文書を読む時間がない。ポイントを要約し、より読みやすくすべき」といった懸念に応じて改善が図られており、そのことにむろん意義はあるのだが、その手の問題よりもはるかに本質的で重要な問題が置き去りにされている。とても気持ち悪い。

たとえば今の添付文書には「これまで何人の人間がその薬を飲んだか?」という情報が欠落している。それってとても重要ではありませんか? 人類史上300人しか飲んだことのない薬と、300億人が飲んだ薬とでは、見かけ上同じ副作用が載っていても、情報の質がまったく違うに決まってる。今の添付文書はその違いにまるで無頓着なのである。

一人一人の患者を幸せにするための情報も欠けている。現在の薬効評価では、有効性と安全性を別々に報告する。だからたとえば、「投薬して重い副作用が出ずに治療が終了できた患者の割合」といったデータが見つからない。「副作用が辛くて効いていた治療を断念した患者の割合」や「副作用が出たけど薬が効いた患者の割合」といった情報も通常はない。患者が「有効性のヒト」と「安全性のヒト」の2つに分かれているわけはないのに。

副作用症例がネブラスカ州のおばあさんなのか、青森県に住むおばあさんなのかの区別がつかないといった問題もある。「誰が・誰に」への無関心はもはや製薬業界の伝統でもある。

むろんこれらは単に添付文書の問題ではなく、「薬が効く」とはどういう意味かをろくに考えたことがない我々全員の問題である。百年後の添付文書では改善がなされていることを期待したい。

小野俊介(東京大学大学院薬学系研究科医薬品評価科学准教授)[有効性・安全性][服薬の人数と属性]

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