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新たな社交不安症(SAD)のサブタイプである「パフォーマンス限局型」の治療 【SSRIによる薬物療法や認知行動療法が有効】

No.4819 (2016年09月03日発行) P.57

松永寿人 (兵庫医科大学精神科神経科学主任教授)

朝倉 聡 (北海道大学保健センター・大学院医学研究科精神医学分野准教授)

登録日: 2016-10-19

最終更新日: 2016-10-19

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  • 精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(Di­agnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 5th Edition:DSM-5)の中では,社交不安症(social anxiety disorder:SAD)の中に,「パフォーマンス限局型」の特定が必要となりました。これは「その恐怖が公衆の面前で話したり動作したりすることに限定されている場合」と定義されています。このタイプのわが国での有病率は,非常に高いことが予想されますが,これに対する薬物療法や認知行動療法について,北海道大学・朝倉 聡先生にご教示頂ければ幸いです。

    【質問者】

    松永寿人 兵庫医科大学精神科神経科学主任教授


    【回答】

    (1)SADの分類・診断基準の変遷
    SADは,1980年に米国精神医学会による精神疾患の診断と統計の手引き第3版(DSM-Ⅲ)において,社交恐怖(social phobia)という診断名で,臨床症候群を表すⅠ軸診断として,その診断基準が示されました。このときには,人前で話をしたり,人前で字を書いたり,会食をしたり,公衆トイレを使用したりするような特定の社交的状況に対する恐怖が強調されていました。主にある行為状況に対する恐怖,不安症状が示されており,単一恐怖(特定の恐怖症)の一種という程度の認識であったと考えられます。また,全般的な社交的状況に対する恐怖症状あるいは回避行動をとる症例はパーソナリティ障害を表すⅡ軸診断の回避性パーソナリティ障害に分類されることになっていました。その後,診断基準が示されたことにより大規模な疫学調査などが行われ,SADは,典型的な発症年齢が10歳代半ばと早く,有病率が高く,うつ病やアルコール依存の併存が多いことなどが示され,さらにSAD患者は,特定の行為状況のみならず多くの社交的状況で困難をきたしており,学業や職業上また婚姻や日常の社会生活全般に大きな障害をきたしていることが明らかとなってきました。

    これらをふまえ,DSM-Ⅲ-Rでは,1つあるいは2つ程度の状況のみならず多くの社交的状況で恐怖,不安症状や回避行動を示す「全般性」の特定をすることになり,SADは非全般性と全般性の2つの亜型に分類されることになりました。

    さらに,DSM-Ⅳでは,人目につく赤面,震え,発汗などの不安症状を恐れることが診断基準に明記されるようになり,社交的状況で出現するこれらの不安症状をコントロールできなくなる経験にとらわれ,予期不安の悪循環に陥り,このため他者から注目されたり恥ずかしいふるまいをしてしまうのではないかということを恐れることが示されました。診断名も,social phobiaからsocial pho­bia(social anxiety disorder)と変更されました。

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