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【識者の眼】「ピロリ菌感染症を五類感染症に指定しよう」浅香正博

No.5153 (2023年01月28日発行) P.63

浅香正博 (北海道医療大学学長)

登録日: 2023-01-20

最終更新日: 2023-01-20

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ピロリ感染胃炎の除菌に保険が認可されてから除菌数が累計で1000万人を超えた。その結果、40年間にわたって変化が見られなかった胃癌死亡者数が減少し始めたのである。世界で初めての現象と言える。

しかし、2017年頃からピロリ菌除菌者数は増加のスピードが鈍ってきた。この問題に関心のある人の除菌がほぼ終了に近づいてきたためと推測されるが、新型コロナウイルス感染症の影響で除菌する人の数が減っている可能性も示唆される。未だ2000〜3000万人存在すると考えられるピロリ菌感染者の多くが除菌されていないので、打開策を考えなければならない。

新型コロナウイルス感染症がオミクロン株に変異してから死亡率の減少が報告され、二類感染症相当から五類感染症への移行が検討され始めている。五類感染症とは、国が感染症発生動向調査の結果等に基づいて必要な情報を国民や医療関係者に提供していくことで発生、蔓延を防止すべき感染症と位置づけられている。季節性インフルエンザや感染性胃腸炎などが指定されている。

ピロリ菌感染症はわが国の胃癌の原因の98%を占めることが明らかになっており、その除菌で胃癌の発生が抑制されることも立証されてきた。然るに、ピロリ菌感染症は現在に至るまで五類感染症に指定されていない。厚生労働省は胃炎に対するピロリ菌の除菌を認可したが、その後の対策は全く行っておらず、ピロリ菌除菌による胃癌撲滅の啓発活動は主として日本ヘリコバクター学会を中心とした関連学会によって推進されてきた。ピロリ菌感染症が五類感染症に指定されると、国によってピロリ菌感染の状況が把握され、予防策が実施されることになり、国民への胃癌の予防啓発がより深くなされると思われる。

新型コロナウイルス感染症が五類感染症に移行する可能性が出てきたときに、ピロリ菌感染症を五類感染症に指定することには大きな意義があると考えられる。新型コロナウイルス感染症の五類感染症への移行で国民の社会生活が平常に戻り、医療逼迫の可能性が低くなることが期待されている。一方、ピロリ菌感染に対してはこれまで学会単位で行っていた対策が国の管理の下で行われるようになり、正確性が向上し信頼度が増すことになる。ぜひともこの機会にピロリ菌感染症を五類感染症に指定してほしいと願っている。

浅香正博(北海道医療大学学長)[新型コロナウイルス感染症][胃癌撲滅]

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